気の向くまま読書note 悪女について
先日読書noteで取り上げた「女二人のニューギニア」
これが予想以上に面白く。
ストーリーはもちろんなのですが、有吉佐和子さんのお人柄がとても魅力的で
ぜひ他の作品も読んでみたいと思いました。
先月、札幌市東区にあるダイヤ書房 ヒシガタ文庫という本屋に行きました
(前回、くすみ書房の本を読んでから街の本屋さんに興味を持つようになり
いろいろ訪れるようになりました。この辺りは長くなるのでまた別の機会に)
ヒシガタ文庫はとても魅力的な本屋さん。
そこで目に留まったのが有吉佐和子さんの「悪女について」
有吉さんの小説を読んでみたいと思っていたので、これはいい機会と
読んでみることにしました。
ミステリー・・・悪女・・・
わたしにとって、馴染みのないキーワードですが
有吉作品ということ、そしてなんといってもこの帯の文に惹かれました。
この書店の手書きPOPを連想させる魅力的な帯!
手書きって独特の魅力があります。
ミステリー色むんむんの表紙を見たら怖そう(?)で
まず手にとらなかったと思います・・・帯のチカラって偉大。
有吉佐和子さん。
どうしてもニューギニアの山中でバーガラップ(壊れて)して
ネイティブたちに豚の丸焼きのように棒にくくりつけられて運ばれる様子を
思い浮かべてしまいます(笑)
こんなに知的そうな人なのに!
悪女について。何度かドラマ化されているみたいですね(最近だと昨年にも!)
それで人気が再燃しているのかな。
とりあえず読み進めてみます。
聖女?それとも稀代の悪女?
「悪女について」 主人公は富小路公子(とみのこうじきみこ)
若く、才気あふれる魅力的な女性。会社を興し一代で大きな富を築く。
そんな彼女が謎の死を遂げた。
マスコミは隠された彼女の人生を暴き、虚構の女王の謎の死と
スキャンダラスに面白おかしく囃し立てる。
公子は本当に悪女だったのか?
公子の死の真相は?
この話に公子本人は一切出てきません。
公子の周辺にいた27人の証言により、話は構成されています。
人は誰しも、いろんな顔を持っています。
Aさんから見た印象と、Bさんが持つ印象。同じ対象でも、それが異なることは普通だと思います。
が、公子はあまりにもいろんな顔があり驚くばかり。
一人一人の証言から輝くように美しく聡明で、商才に長け、さまざまな顔を使い分けながら、ありとあらゆるものを手に入れていく。
時に悪女と言われてもおかしくないような手段を使いながら。
そんな女性像がどんどん立体的に形をなしてきて、ページを捲る手が止まらなくなります。
息子が二人いるのですが、その息子たちが持つ公子像が正反対なのが
また興味深かったです。
(どこのおうちでも同じ親に育てられても、兄弟で受ける親像は異なると思いますが・・・相性もあるし・・・)
ちなみに息子たちのことを自分の子だ、と証言する者数名あり。
また二人はあなたの子よ、と公子に言い寄られる者もあり。
結局は父親が誰かもわからずじまいです。
実際、兄と弟が同じ父親なのかも、かなり怪しい(兄弟全然似ていないという証言もあり)
2度にわたる結婚生活中を含め、自称父親たちとは身籠った10代の頃から亡くなるまでずっと関係が続いていたもよう。
他にも若い愛人と結婚の約束をしていたり、何人もの男性と同時進行で関係が続いていたようです。
(華やかすぎ!すごいわ〜〜〜)
恋愛はもちろんのこと、
宝石やドレス、花などとにかく美しいものが好きで、気前がよく、
贈り物好きで社交的、いつもふんわり笑顔を絶やさない。
描写によると絶世の美女ではなさそうだけど、色が白くて愛らしい顔立ち。
いつまでも若く見られるかわいらしい女性
(実際、年齢を10歳サバ読んでいた模様)
その才知で欲しいものはスルリと手にいれる
公子のことを聖女のように讃える者
稀代の悪女と罵る者
どれも間違いなく公子なのでしょう。
彼女そのものがダイヤモンド
人によりまったく印象の異なる公子。
単純に、公子は嘘つきの八方美人だ!と断言したくなるのですが
おそらく、公子自身に自分は嘘をついているという自覚はないような気もします。
(今ならパーソナリティ障害なんて言われるかも?)
気前もよく金払いもいい公子。
生前、すごくよくしてもらった、という証言も多い公子ですが
もしわたしが友達になりたいか?と聞かれたら遠慮したいところです(笑)
はたして公子に友達が存在したのでしょうか。
生前公子が周囲に親友だと言っていたという、烏丸瑤子という女性も登場しますが
瑤子曰く「自分が話すばかりで公子はもっぱら聞き役。公子が2度結婚していて2人の息子がいることも亡くなってから知った。そんな親友ってある?」と言います。
リラックスして本当の自分を包み隠さず出せる、
この27人の中にそういう存在がいたのかかなり怪しいところです。
でも、公子にとって自分のことをなんでも出せる相手なんてどうでもいいことだったような気もします。
ここに書かれている公子はどれも自分、本当の公子だったのだから。
27人の証言がプリズムのように美しい面を作り出し
公子はひとつの大きな美しいダイヤモンドのように輝いています。
27人の証言は美しいダイヤモンドのカット。
ひとつひとつのカットが公子という美しい女性そのものを浮かび上がらせている。
ダイヤモンドが大好きだった公子。
彼女そのものがダイヤモンドでした。
(ここで、この本を買った本屋さんの名前がダイヤ書房だということに気づきました。たまたまだけど・・・その偶然にちょっとびっくり)
そして死の真相は?
死の状況は後半、若い愛人である小島誠の証言でようやく明るみに出ます。
(それまでは亡くなった、という事実しか出てこない)
自殺じゃないか、他殺じゃないか。もしくは事故?
登場人物からいろんな予想が出ますが、結局真相は最後までわかりません。
公子の死の真相に迫りたくてページを追っていたので、
読み終わってすぐは「え〜っここで終わりなの?!」感があったのも事実(苦笑)
でも、死の真相に関しては(想像の範囲を超えませんが)
おそらく最後に登場した次男の義輝の証言の中にあるのかなと思いました。
義輝の実年齢より随分幼いような、夢見がちな様子
その舌っ足らずな語り口はいつまでも夢見る少女然とした公子に近いものを感じます。
誰が殺したのか。自殺だったのか。真実はわからない。
結局、公子は公子らしい、最も美しい在り方でこの世を去ったのでしょう。
たくさんの顔を持ち、お金も美も異性も若さも全て手に入れた公子。
公子の成功は美しい死を持って完成されたのかもしれません。
余談ですが・・・
余談ですが、公子はわたしのとある友人にイメージが近く
ずっとその子を思い浮かべながら読んでいました。
色が白くて、童顔で透き通るような肌、鈴のような高い声の可憐でかわいい女の子(アラフォーでもう女の子という年ではないのですが、すごく若く見える)
なぜか彼女は私生活で本名を名乗りません。
(わたしは事務的な事情で、たまたま名乗っている名前と実の名前が違うことを知った)
彼女は少し前に倒産した、地元の某企業の経営者の一人娘。
債務整理が終わったのがごく数年前で、当時の債権者が周辺にちょこちょこいるので今も本名を出さないの、とこっそり教えてくれました。
ただ、それは本当の理由なのか分かりません。別の理由を他の人に言っているのを聞いたことがあるので。
単純に通称の名前の方が気に入ってるということだけかもしれないし、真相は謎です。
その彼女について不思議なのはそれくらいで、特別悪女ではなかった(と思う)のですが、
いつもニコニコフレンドリー、だけどきっと誰にも見せない顔が
あるんだろうな〜というどこか謎な感じが公子と似ている気がしました。
(そういえば公子の富小路公子も本名ではないんですよね・・・
公子の場合は戸籍まで変えてしまいましたが 汗)
その子は結婚して、遠く離れた地で家庭を築いています。
もちろん旦那さまは本名で彼女を呼びます。
その子は悪女でも聖女でもない、多分ごく普通の女の子。
公子の幸せは多くの人にとって幸せかはわからない。
でもその子は普通に幸せになって欲しいなあ。
500p以上の長編ですが、旅行の移動中に読み進めたこともあり、1日半で読了。
何十年ぶり?のミステリーでしたが
想像以上に面白く、ワクワク読み進めることができました。
有吉作品をもっと読みたくなり、また次の本に手を伸ばしています。
全く興味がなかったジャンルに手を伸ばし、世界を広げていく。
そんなこともたくさんある読書ってやっぱい面白い!