二匹の猫と楽しい毎日ー3(ペットロスが消えた)
デブ子のいない、<ペット・ロスまみれ>のつらい一週間が過ぎた。
その日もいつものように門柱にデブ子がいないのを確認し、肩を落としながら玄関にたどり着いた。
「帰ったぞ~」
扉の外から、大きな声で叫んでみた。
半分ヤケだ。
「は~い」
“気のない”返事が返ってきた。
いつもなら元気よく玄関にでてくるのだが、自分の部屋にいるらしい。
・・・「疲れて帰ってきているんだから、ちゃんと返事くらいしろ」・・・
そんなグチが出そうになったが、今は夫婦喧嘩をする元気もない。
黙って玄関を開けたが、妻の姿はない。
そこでもう一回わざとらしく、大きな声で叫んでやった。
「旦那様が帰ったんだぞー!」
「わかってるわよ~~~ん」
何故か不思議に弾んだ声が、妻の部屋から聞こえてきた。
新婚依頼の甘い声。
思わず背筋が凍りつく。
・・・最近疲れていて、体力はない・・・・・・!!!
扉が開いた。
強張った顔で妻を見る。
「ニャァ~」
か細くたよりない声が妻の両手の中から聞こえてきた。
驚いて、顔を近づける。
ち~さな子猫が真ん丸な目を開いて僕の顔をみているのだ。
「かわいいでしょう」
妻はその子猫をそっと僕の前に差し出した。
僕は訳がわからないままその小さな子猫を震える手で受け止めた。
自分でもさっきまでの<仏頂面>が消え、顔全体の筋肉が崩壊しているのがわかる。
「どうしたんだ、これ」
突然の子猫の出現に言葉が出てこない。
「可愛いでしょう」
「友達から借りてきたのか」
我が家に遊びに来る妻の友人が、飼い猫の自慢をしているとき、妻は「我が家には時々やって来るレンタル猫がいる」と話していたことがあった。(むろんデブ子の事だ)
いわゆる猫友達が多い。
だから、どこから<猫を借りてきた>のだろうと思った。
「違うわよ、もらったの」
「どーして」
「どーしてって。あなたが毎日暗い顔をしているのを見るのが嫌なの」
「このマンションは動物は飼えないだろう」
「大丈夫よ、子猫なんだからわからないって」
「ばれたらどうする」
「そのときは、そのときよ」
不安そうな顔をしている僕を見て、妻は口を尖がらせた。
「そんなに嫌なら、返してこようか」
見ると子猫は僕の掌の上でスヤスヤ眠っている。
その寝顔を見ていると
・・・今更、返したくない・・・という気持ちが湧いてきていた。
「ち、ちょっと待って」
悪魔のささやきに負けてしまった。
子猫を抱いたまま、僕はソファアに座った。
それまで秋風が吹くような寂しさが漂っていた心の中が、ほわっと暖かくなっていた。
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