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ガルフの金魚日記9

 急に空がうす暗くなってきました。
と思っていたら、あっ、海の匂いがします。それもかなり強く感じます。
これは…、まちがいない。

嵐がやって来る…。
なぜかといいますと、金魚鉢から毎日、空を見ていると、その日その日の天気が、天気予報士以上にわかってくるようになりました。
これこそ自然界に生きる生きものの、人間界にないカンというものでしょう。
ただボケッと、金魚鉢の中で泳いでいるだけではないのです。

多くの金魚たち、いやぷくたち、仲間のさかなは、いつ天気が悪くなるか知っているのです。ただ、みなさんにお知らせする方法がないだけです。

地震のときに、鳥がねぐらの森から逃げだしたり、町からねずみがいなくなったり、お聞きになったことがあるでしょう。そう、あれとおんなじです。

ぷくたち金魚だって、カンが衰えているといってもまだまだわかるのです。

 そんなことをいってる間に、ガラス越しに水平線を見ると、黒雲がむくむくとわきあがっています。そして見る間に近づいてきます。
 パタパタパタ。
 叩きつけるような大粒の雨です。グブグブグブ。

 これは、危険な雨だ。だれかに知らせなきゃ!
金魚鉢の中をぐるぐる、それも激しく泳ぎ回りました。でも、だれも気が付いてくれません。水面からジャンプし、叫びました。
「大変だよー。大嵐がくるよー。ブク」
 息が続きません。人間が水の中で息ができないのと同じです。

 やがて思っていたとおり、バシャバシャバシャと大きな音を立てて滝のような雨が降ってきました。そのあとすぐに、強い風とともに横殴りの雨になりました。海は灰色の波を巻きあげ、大荒れです。

 ビカッ! 
ドカン!
 稲光です。削ぐそばに落ちたようです。
怒り狂った大波が、防波堤に打ち寄せ、海の飛沫(しぶき)を吹き飛ばしています。

「窓を閉めてぇー。グフグフグフ…」
「わー、たいへん!」
 春さんが飛んできて、玄関の扉と出窓の窓を、ガタガタいわせながら閉めました。
「あー、よかった。ぷくぷく」

そう思っていたのですが、
「ガルフ! どうしてもっと早く呼んでくれなかったのよ。もう、水びたしじゃない」
 春さんは雑巾を持ってきて、ブツブツ文句をいいながら、そこらじゅうをふきふきして、そそくさと嵐のように去って行きました。

外の嵐も大変だけど、春の嵐はもっと大変なんだ。
冬さんのいわれのない苦労が、少しわかったような気がしました。

海の飛沫のせいでしょうか、金魚鉢の水が少し塩辛くなりました。これが海の味というのでしょうか。
この水は、いったいだれが、かえてくれるのでしょうか。ぷくぷく…。
明日の金魚日記へつづく

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