学芸美術 画家の心 第40回「ピエール・ボナール 花ざかりの杏の木 1946~47年作」
この絵はボナールが80歳になり病床に倒れ、それでも死の直前まで手を入れた作品で、完成を確認すると静かに永遠の眠りについた文字どおり最後となった作品。
死を直前にした彼は、「私はひたすら何か個性的なものを作ろうとしているだけだ」と語ったが、その思いを完遂することができたのだろうか。
それができたのかできなかったのか、今となってはわかりようもない。
可愛い花が咲き乱れ、真っ青な空の下、白い杏(あんず)の花が咲きほこり、春真っ盛りだ。
命宿る春。生きとし生けるものすべてが再生を喜び、鳥は歌い、新たな出会いと恋を求め、男と女は杏の樹の下で恋を語らう。
ボナールもこの樹の下で愛しいミューズと愛の言葉を交わしたのだろうか。
そのミューズも5年前に亡くし、孤独だったボナール。彼女の死後も面影を求め描き続けていたという。
印象派の先輩モネもカミーユを失うとひとの顔が描けなくなったという。
正光の画家モネ、逆光の画家ボナール。
ある意味純情で生真面目(きまじめ)なふたりだった。
モネは1926年86歳でこの世を去っていたが、それまでにふたりが友情を交わしたということはなかったようだ。
独自の道を駆け抜けたふたり。それぞれの道は決して交わることなく、天国へと旅立って行った。
あの世でもふたりはきっと離ればなれ。
ボナールはミューズが待つ所へ、モネはカミーユの元へ一直線に昇って行ったことだろう。