童話小説「ガルフの金魚日記47」
冬さんは、「人は、自分が何にむいているのかなんて、だれもしらないし、わからない」、と。そして、つぎにこんなことをいいました。
「好きなものが見つからない。将来何をしたらいいのか、わからない。これって普通だよ。あたり前なんだって。だから、目の前にある、自分のできそうなことをやればいいんじゃないか。このときのぼくにできることって…」
「春さんが、島にかえるべきよって、いったんですね」
「そう。春さんの言葉が、ストンと腹におちて、島に帰ろう。そう決めた。そのあとのことは、島に帰ってから考えよう、ってね。それで、オカアに電話したら、郵便配達のおじさんが倒れて、お前が帰ってきて、助けてくれたら助かるよぉって。家がタバコ屋で、切手や郵便物を扱っていたからね。それもあって」
「それで郵便屋さんのかわりに、アルバイトをしていたんですね。ごくろうさまです」ぷく。
「自転車のかごに、島の地図と郵便物を入れて、ぼくのいるいちじく浜の人たちは、冬ちゃんって、呼んでくれて、わからないところは教えてくれるからいいんだけど、島の裏に小さな村があって、そこの人たちにとどけるときは大変。自転車でこの山を越えなきゃなんないから、最初は、ふーふー息ついで、村に着いたときはもう、よれよれ。それにだれがだれだか知らないし、この手紙はこの家でいいですかって、尋ね歩いて、くたくただったよ」
冬さんは、そのときのことを思いだしたのでしょう。にが笑いを浮かべました。
「夏になるまえに、すでに顔はまっ黒になっていましたね。冬さんじゃないみたいでした」ぷく。
「午前と午後に島中を回るだろ。体はきつかったけど、島の人たちがありがとうと言ってくれて、みんなの役に立ってるって、実感できた」
「そうでしたか。それはよかったです。ぷくも、まいにち冬さんの顔がみられるようになり、うれしかったです」ぷくぅ。
「島の人たちは、いつもの郵便屋さんが倒れて、これからどうなるのかって、本当に心配していたから、助かるよぉっていわれ、くすぐったいような、照れくさいような。ただ、郵便物を配ってるだけなんだけどね」
ほんとうに良かったです。ぷくぷく。
「それからしばらくして、島の農協もだいぶまえ前から人手が足らなくて、空いた時間に助けてくれないかって頼まれて、いまでは農協の職員と郵便局員を兼ねている」
「そうでしたね」ぷく。
「それに、インターネットが当たり前になってきて、なんでもネットで買い物をするようになって、するとそれを届けなければならない。その代理店もするようになり、毎日届け物をするだけでも大忙しさ」
「冬さんはこのいちじく島に、ぜったい必要な人になってますね。春さんが予言したように」
「う~ん。結果的にだけど、そういうことになるのかなぁ~」
冬さんは感慨深げにうなずいています。ぷく~。
明日の金魚日記へつづく