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学芸美術 画家の心 第54回「アンディ・ウォーホル マリリン・モンロー Shot Sage Blue Marilyn 1964年」
アンディー・ウォーホルは1960年代、アメリカにおけるポップアートの旗手として評価されていた。
そして、シルクスクリーンという印刷技術を使ってこのような作品を大量に制作し、多額の収入を得ていた。
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そして事件が起きた。
アンディーの友人がやってきて4枚重ねて置いていたこの作品に「Shot」してもいいかと尋ねた。
アンディーは当然のように「OK」した。アンディーはカメラで写真を撮るShotだと思っていた。
しかし、友人は本物のピストルでこれら4枚の絵をShot、撃ち抜いてしまったのだ。3枚は修復されたが、この「Sage Blue Marilyn」だけは修復されずそのままとなった。
ところがこの「Shot Sage Blue Marilyn」がクリスティーズのオークションにかけれると、250億円という破格の値段で落札された。
これはいったいどういうことなのか?
何とも言えない違和感と同時に、大きな疑問が湧いてくる。
「バンクシー シュレッダー事件(第52回)」と相通じるものがある。それは、
「この作品は果たして芸術といえるのか?」
「これを見て美しいと感じ、人を癒す力があるのか?」
と、いうことである。
この前提に立てば、すべてにおいて「否」であるだろう。事実、当時アメリカの評論家たちからも多くの批判が寄せられた。
しかし、世間は彼の作品を高く評価した。その証明が250億円という価格なのだ。
ではなぜ世間はこの作品にこんなにも高額の値段を付けたのだろうか。
それの答えとしてひとはこう言うかもしれない。
「これはアートなのだ」、と。
「これの良さは、あなた方にはわからない」
「アート」と「芸術」。この二つは違うものなのか。辞書を繰って調べてみると、
「芸術」とは、特殊な素材・手段・形式により、技巧を駆使して美を創造・表現しようとする人間活動、およびその作品。建築・彫刻などの空間芸術、音楽・文学などの時間芸術、演劇・舞踊・映画などの総合芸術に分けられる。
「アート」は、「芸術」であり、 「芸術」は「アート」と解されている。
言葉にすればほぼ同じ、いや同じものといえるのではないだろうか。
違うとすれば、受け取り側の気持ち次第だということだろうか。
しかし、250億円なのだ。
この売り上げは全てスイス・チューリッヒにあるトーマス・アンド・ドリス・アマン財団に寄付され、世界中の子どもたちのための医療・教育プログラムの確立に充てらたという。
この作品を売ったほうも買ったほうも、何らかの後ろめたさを感じていたのかもしれない。
それを一縷の救いとしようか…。