見出し画像

童話小説「ガルフの金魚日記38」

秋ちゃんはお母さんに、お父さんと、どうして結婚したのか聞きました。
「いやぁねぇ、そんなこと。お父さんに聞きなさい」
「お母さんに聞いてるの。ねぇ、どうして」
「また、こんどね。せんこう花火きれいだね」
「うん」
 春さんは、秋ちゃんの質問をはぐらかしました。

 秋ちゃんと夏くん、春さん、冬さんの花火あそびが終わり、みなはつかれて、すでにぐっすり眠っています。
夜はとっぷりと暮れていきます。
 海のずっと沖合に、あわく青白くひかりました。目をこすってよく見ないとわからないほどです。

その青白いひかりは強度をましながら、浜辺にどんどん近づいてきます。
そして、ひかりの中からむらさきのちょうが、ふわふわと何匹も飛んできました。
その一匹が、ガルフの金魚鉢にとまりました。

「四季ばあさんですね。こんばんは」
「ガルフ、元気そうじゃないか」
「おばあさんこそ」
「幽霊に元気もなにもないけれど、気にしてくれてうれしいよ」

 ぷくは、秋ちゃんにかわって尋ねました。
「四季ばあさんは、冬さんと春さんがどうして結婚したのか、知っていますか」
「ああ、あのふたりはねぇ」
ふふふ、と四季ばあさんはほほえみました。
「ガルフには、あのふたり、どう見えるかい」

「どう見えるって、仲のいい夫婦ですけど…。でも、春さんのほうが、元気がいいです」
「だれが見てもそうだよ。実はね、春さんは冬に、結婚してって、おしかけてきたんだよ」
「えー、びっくりです。そんなことがあったんですか」ぶくぶく。
「ああ、そうだよ。おしかけ女房っていう、あれだよ。だけど、よく気がつくいい子だよ、春さんは」
 四季ばあさんは、そのときのことを思いだしたのか、羽をパタパタさせ、ひとり笑っています。

そういうことなら、春さんも本当のことを、秋ちゃんに話しづらかったのでしょう。
「ねえ、四季ばあさん。冬さんと春さんはどこで出会ったのですか」ぷく。
「さあ、どこだろうねぁ。冬さんは子どものころから、もの静かでおとなしい子だったからね。いつもひとりでいたね」

「学校から帰ってくると、ずっとぷくの面倒を見ていてくれました。ぷくは、まだ小さかったから、冬さんがそばにいてくれて、ちっともさみしくありませんでした」ぷくぷく。
「でもねぇ、冬さんにお友だちができないんじゃないかって、それはそれで心配だったよ。でも、そんな冬さんに、お嫁さんがきたんだからね、おしかけ女房だろうとなんだろうと、あたしはおおよろこびしたよ」

「そうでしたね、四季ばあさんがバンザイ、バンザーイしているの、ぷくも思いだしました」
「それから、春さんのご両親をよんで、ささやかなお披露目の会をしようと思ったんだけど…、そのあとがまた大変だったね。春さんのお父さんはカンカンに怒ってるし、お母さんは、おろおろ泣くばかり、どうしたものかと、これはこれで大変だったよ」
 四季ばあさんは、むらさきの顔をしかめました。

     明日の金魚日記へつづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?