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童話小説「ガルフの金魚日記16」
秋ちゃんが男の子と手をつないで歩いています。
あの子が、好きになったというケンちゃんでしょうか。
秋ちゃんと男の子が玄関をくぐり、出窓にいるぷくのところに、にこにこしてやってきました。
「ケンちゃん、この金魚がガルフよ。あたしといつも、おしゃべりしてるの。ねぇ、そうよね、ガルフ。ケンちゃんにあなたの声を聞かせてあげて」
秋ちゃんは、ぷくを指さしています。
ぷくぷくぷくー。
「みてみろ。金魚がしゃべるはずないだろ。やっぱり、おまえ、へんだよ」
ケンちゃんは、いいました。
たしかに、金魚はけっして人とはしゃべりません。でも、本当はしゃべれるのです。ただ人間の前ではだまっているだけです。ぷくぷく。
「やっぱり、ぷくぷくしてるだけじゃないか」
「ガルフはしゃべれるよ。あたしとおはなししてるもん。ふつうの金魚じゃないもん。ねぇ、ガルフ」
どうやら、秋ちゃんは、ぷくがしゃべれることをケンちゃんに自慢したようです。
「ガルフ、おねがいだから、いつものように、あたしとおしゃべりして」
秋ちゃんは、今にも泣きだしそうな顔で、ぷくにいいました。
でも、知らない人とはおしゃべりできません。それは金魚界、いや、ありとあらゆる魚界の掟(おきて)です。ご法度(はっと)なのです。
これを破るとぷくは、金魚の天国に行けません。地獄に落ちるといわれています。
でも、金魚の天国も、地獄も、見た金魚は、いないそうですけど…、ぷくぷく。
だから、見ず知らずの人とおしゃべりはできないのです。いくら秋ちゃんのたのみでも、それはできないのです。地獄に落ちるのはいやですから…、プクプク。
「やっぱりしゃべらないじゃないか。おまえはうそつきだ」
ケンちゃんは、そうさけぶと、走って帰っていきました。
秋ちゃんは、なんにもいい返すことができません。
顔をしかめ、そのままぷくをにらみつけています。きっと、おこられる…、どうしよう。
と、思っていたのですが、秋ちゃんの顔が急にグニャっとくずれると、ウワーンと大きな声をあげて、泣きだしました。
「ガルフのバカ。バカバカ。ケンちゃん。おこったの、ガルフのせいだから。ゆるさないから」
泣きながら、奥の部屋にかけていきました。
知らない人とは、おはなしできないのです。ぷくにはどうしようもありません。
秋ちゃん、ゆるしてください。
追いかけてなぐさめてあげようにも、ぷくはここから一歩も出ることはできません。
金魚鉢の金魚です。
ただただ、はやく元気になってください…、お祈りするばかりです。
ぷーくぅぷーくぅぷぷぷーくぅ。
明日の金魚日記へつづく