童話小説「ガルフの金魚日記40」
冬さんがやって来ました。
今日は、冬さんのお仕事がお休みの日です。
冬さんは、この島の農協につとめています。農協といっても郵便局員も兼ねています。
島に人が少なくなったせいだといっていました。
いちじく島は、あたたかくて、食べのものおしいところです。とてもいいところなのに、どうして人はいなくなるのでしょう。
ぷくたち金魚は、いいえ多くの生きものたちは、あんぜんで、食べ物のいっぱいあるいいところなら、たくさん集まってきます。ぷくから見れば、人ってほんと、ふしぎです。ぷくぷく。
冬さんの話では、冬さんが子供のころ、島に小学校と中学校があったそうです。でもいまは、小学校しかありません。中学生になると連絡船に乗って、となりの大きな島の中学、高校に通うそうです。
たいへんですね、ぷく。
「金魚鉢の掃除、しようか」
冬さんが言ってくれました。
「うれしいです。おねがいします」ぷく。
冬さんは、金魚鉢をかかえると、裏庭に出ました。
裏庭には、いろんな草木が植わっています。ゲロ松がかくれていたあじさいの花は、すっかりしおれています。
ぷくは冬さんや春さん、秋ちゃんや夏くんのことを、家族だと思っています。これからもずっと家族でいたいです。
冬さんは、ぷくが生まれてしばらくしてから育ててくれたので、ぷくのとは何でも知っています。
でも、ぷくは冬さんのこと、あまりおおくのことを知りません。
「ねぇ。冬さん」
ぷくは思い切って、聞いてみることにしました。
「冬さんは、春さんとどうして結婚したんですか。春さんが、連絡船に乗ってこの島にやってきたんですよね」ぷくぷく。
ちょうど、金魚鉢からぷくを取りだしたときでした。冬さんは手を止めると、そのまま固まってしまいました。
ぷくは、網ですくわれたままで、空中にいます。
「冬さん、息が…、息が苦しいです。もうだめです…、ぐ、ぐるし~」ぱくぱく。
体がピクピクとはねました。痙攣がはじまりました。
冬さんは、やっと気がついてくれて、ポチャンと、洗面器の中に入れてくれました。
ゼーゼー、大きくエラを動かしました。
「ああ、悪かった。ガルフ、大丈夫だったか」
「ええ、なんとか」ぷくぷく。
しばらくじっとしていると、酸素が体中をめぐり、元気がもどってきました。
「いきなり、春さんがやってきたときのことをいうもんだから、そのときのことをつい思いだし、固まってしまった」
「よっぽどビックリしたんですね」ぷく。
「春さんがやってくるなんて、思ってもいなかったからね。あのときもびっくりして固まったんだ」
「いまでも固まっちゃうぐらいですから、よっぽどだったんですね」ぷく。
冬さんは遠い目をしています。あのときのことをなつかしんでいるのでしょうか。ぷく。
「冬さんは、春さんとどこで知り合ったんですか」
ぷくは、恋の核心にふみこみました。
明日の金魚日記へつづく
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