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童話小説「ガルフの金魚日記34」

 秋ちゃんとケンちゃんは、手をつないであそびにいきました。
「いってらっしゃい」ぷくぷく。
 ふたりが仲よしになってよかったです、ぷく。

 でも気になることがあります。
 金魚鉢の前にこぼれたビスケットのくず。秋ちゃんとケンちゃんはおいしそうに食べていました。
いったいどんな味がするのでしょう。ぷく。
すぐ目の前にあるのに、いただけません。ぶくぶく。

窓の外に黒い頭が、ひょっこりあらわしました。もそもそはい出てきて、ビスケットのくずに近づいてきます。
その黒いかげは、ビスケットにどんどん近づいてきます。そして、ペロペロと味見しています。

「おい、それはぷくのもんだぞ、手を出すんじゃい」
思わずさけんでいました。ぷく。
「なに言ってるんだ。食べ物をさがすのは、早い者勝ちに決まってんだ。いやだったら、きみがさっさと、取りにくればいいじゃないか」
 黒いかげは、アリさんです。

「ぷくは金魚だから、この中からは出られません」
「そこから出られないなんてきのどくだね。こんなおいしいものが目の前にあっても、食べれないなんて、ほんとかわいそう。う~ん、これは手作りのビスケットですね。それにバターとハチミツのいい香り、甘さもちょうどいい。最高です」
 アリさんは、ほっぺたいっぱいにほうばり、もぐもぐ食べています。

 アリさんは、ピーッと指笛を吹きました。
 すると、仲間でしょうか、一列になって、何匹ものアリさんたちが集まってきました。
 そして、ビスケットのくずを背中にせおうと、回れ右してはこんでいきます。

 とうとう最後のひとかけらになりました。
 それをさいしょに来ていたアリさんが、よっこらしょと、背中にかつぎました。
 そして、そのままふり向きもせず、去っていこうとしています。

「ああー。ぷくも食べたいです」ぶくぶくぶく。
 大きな声でおねがいしました。
 ぷくの願いがきこえたのでしょうか、アリさんはちらりとぷくを見ました。

「そんなに食べたいの?」
「ぷく…」
「これをお前にやったことが、女王様にバレたら、ぼくはしかられる。へたをすれば、きょうのご飯を食べさせてもらえないかもしれない」

「そうでしたか、それなら、持っていってください」ぷく。
 ぷくは、ほんとうにがっかりしました。
「おい、そんな顔をするなよ。行けないじゃないか」
 アリさんはもう一度、仲間たちの方を見ました。
 仲間のアリは、一匹もいません。

「ないしょだから、だれにも話さないでよ」
 とつぜんでした。アリさんは背中のビスケットのくずを、ポーンと金魚鉢のぷくのほうに投げてきました。
 ぷくはおおいそぎで、尾ひれをひっしにふって、水面にむかいました。

 パク!
 水面ギリギリのところでビスケットを、大きく口をあけて、キャッチしました。
 サクサクしていて、これがハチミツとバターのかおりと味なんですね。おいしいです。エラが落ちそうです。ぷっく。

「そうだろう。ぼくがいったとおりだろう」
 アリさんは、おみやげなしの、手ぶらで帰っていきました。
 女王様、おねがいですから、アリさんをしからないでください。
 ぷくのせいなんです、と神さまにおねがいしました。ぷくぷく。

     明日の金魚日記へつづく

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