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童話小説「ガルフの金魚日記45」

「ねぇ、春さん。春さんはどうして冬さんに、島にかえるべきよ、といったんですか」
 ぷくは、とうとう、がまんできずに、春さんにききました。
「まあ、ずいぶん昔のことね。それはね、簡単なことよ」
「かんたんなこと、ですか」
 ぷくには、そうはおもえないのです。それで、おもわず顔をしかめてしまいました。

「不満そうな顔をしているわね。冬さんって、どんな人?」
「そうですねぇ…、とてもやさしい人です。人だけじゃなく、ぷくのような金魚にも、それに、お花や木、生きのもすべてにやさしいです」
「そう。そうよね。それっていいこと、悪いこと」
「そりゃあいいことにきまってますよ」ぷく。

「たしかに、あたしたちにとっては優しい旦那さま、優しいお父さんでいいかもしれないけれど、生き馬の目を抜くような都会で、冬さんがうまくやっていけるとは思えない」
「だから、いなかでいいっていうんですか」ぷく。
 なんだか、冬さんがバカにされたみたいで、すこし腹が立ちました。

「誤解しないで。冬さんはこの島に、絶対必要な人なのよ。ほかの人では勤まらない。無理だとおもうの」
「そうですか。冬さんでないとダメなのですね。じゃあ、春さんはどうして冬さんのところに。春さんのお父さんは、こんないなかに春はやれないって、いったんでしょう」

「お父さんの価値観なら、そうでしょうけど。あたしは違うわ」
「ぷくにはよくわかりません。でも、さっき、冬さんはこの島に必要って、いってましたけど、どうしてそうおもうのですか」

「そうねぇ。あえて言えば、あたしのカン。女のカンよ。冬さんに初めて会ったとき」
「しんかんのときですね」ぷく。
「あら、よく知ってたわね。彼はとても印象的だったというか、どうにもはっきりしないのよね。情けないというか、イライラしちゃって。それで、校舎の裏に引っ張ってきっちゃったの。そのときはそれでおしまい。でも後になって、それもズーっと後になってからだけど、ときどき、そのときのことを思い出していたわ」

「ぷくー。おもいだすねぇ。それってどういうことですか」
「好きっていうんじゃないけど、気になったのは確かね」
「次にあったのは、けいじばんの前ですよね」ぷく。

「そう。冬さん、ボードの前でボーっとしてて、その格好にあたし、また、イラっとして、あなたは島に帰るべきだって、いっちゃったのよねぁ」
「それって口からのでまかせですか」ぷく。

「でまかせなんかじゃいわよ。言ったでしょ、女のカンだって」
「ぷくも冬さんがかえってきてくれて、とてもうれしかった、ぷく。春さん、そういってくれて、ありがとうございます、ぷく」
「わかればいいのよ」
「でも、でも、よくわからないのですが、そんなボーっとした人のところへ、どうしておよめさんに、きたんですか」ぷくぷく。

「そうよねぇ。それはあたしも、わからないのよねぇ。ねえ、どうしてだとおもう」
「おんなのカンじゃないのですか」
 てきとうに言ってみました、ぷく。

「やっぱりそうだよね。これ、あたしのカン。この島に来てみたら、とてもいいところじゃない。冬さんは、こんなあたしを丸ごと受け入れてくれて、子供たちもみんな元気で、いい子に育ってくれている。島の人たちはいい人ばかりだしね。食べるものはおいしいし。なんの不自由もないわ。ガルフも、そう思うでしょ」
「はい! もちろんです!」ぷく!

     明日の金魚日記へつづく

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