童話小説「ガルフの金魚日記37」
きれいな夕焼けからあい色に代わるころ、りーんりーんと虫たちの声がきこえてきます。
「お母さん、はやく!」
秋ちゃんの声です。
「おねえちゃん、ずるい」
夏くんの声がおいかけてきます。
「ふたりともあわてなくて大丈夫だから」
あれは春さんです。
「お父さん、水とバケツ、もってきてね。火も忘れないでね」
「あー、わかってる。ちょっとまってくれよ」
冬さんです。これから何がはじまるのでしょう。
ばたばたと、みんなが外に出てきました。
「ぼく、打ち上げ!」
「あたし、せんこう花火。おかあさんは」
「あたしもせんこう花火かな」
「打ち上げは、最後にしよう」
冬さんがいいました。
シュルシュルシュル―。
「キャー、あっち、いって」
「ぎゃははは」
ねずみ花火です。パチパチ火花をとばしながらクルクル回り、あっちにいったり、こっちに飛んできたりしています。
「こんど、これ」
夏くんが取りだし、火をつけました。
黒い煙をもくもくはいて、黒いものがぬるぬる出てきます。
シューといってきえました。
「なんだ、これだけ。つまんない」
「へび花火、きらい。まっ黒できたないもん」
「じゃあ、つぎはこれ」
火をつけるとグルグル回りだし、ブーンと音をたて、暗い空に飛びあがりました。
「わー、すごーい」
UFO花火です。
「あたしもする。あたしはこれ。おかあさんもいっしょにしよう」
秋ちゃんと春さんは、長い筒状の花火をもっています。
「よーし、火をつけるぞ」
冬さんが火をつけると、シュー、シュー、きいろや赤、青くかがやく火花を噴きだしています。ドラゴン花火です。
秋ちゃんと春さん、冬さんと夏くんも火をつけ、加わります。
シューシューシューシュー。
四人が横一列に並びました。
「ナイアガラの滝」
冬さんがいいました。
「四人でするときれいだね」
春さんがうっとりして言いました。
「ねえ、こんどはロケット花火がしたい」
「ここではできないから、浜辺へ行こう」
夏くんと冬さんのふたりは、潮の引いた浜へ走って行きました。
「せんこう花火しよっか」
春さんが秋ちゃんに声をかけました。
ふたりはせんこう花火に火をつけました。
シュルシュルシュル、とほそい火線が闇を裂き、火線の先ピチピチと火花を散らします。
やがてせんこう花火は小さな黄色い玉となり、ピチッ、ピチッ、と最後の火花を吹き出し、やがてポトリと地面に落ちました。
次のせんこう花火に火をつけました。
ピチピチ、パチパチ、火花を飛ばしています。
秋ちゃんと春さんは、うっとりと、かわいい火花を見ています。
「ねぇ、おかあさん。聞いていい」
秋ちゃんは、せんこう花火持ったままいいました。
「なにかしら」
「お母さんはどうして、お父さんと結婚したの…」
浜辺のほうから、パーンパーンと、ロケット花火が破裂する音がきこえてきました。
明日の金魚日記へつづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?