見出し画像

賃貸マンションの素人経営やってます ~古アパート編①~

父の跡をついで、賃貸マンション、アパートの経営もしています。
これは、その #実録

◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇

築50年になる古アパートの住人のおはなし。
今回は、1階76号室。

76号室の住人

76号室の住人は、70歳ぐらいのおばちゃん。
よく1階の出入り口、スロープあたりに腰かけている。

管理人さんとおばちゃん

今でこそ、管理は管理会社に任せているが、
父の代までは、住み込みの夫婦が管理人、
というのが定石。
今でも、小さなアパートや古い賃貸住宅では、
大家兼管理人、ということもよくあるみたい。

「もっとゆっくりと、住むところを探そうと
思とったのに、おたくの前の管理人さんに、
安うしとくから、ここに住んだらええねん、って、
無理矢理に決められた。」と、76号室のおばちゃんは、
会うたびに言う。 

安うしとくもなにも、元々安いやん。

「だったら引っ越したらいいのに。」
何べん、おんなじことを言わせるねん。

お局様とおばちゃん

アパートには、最上階の4階に、世話好きで、
頼りになるおばちゃんがいる。
自主的に、いろいろと仕切ってくれるお局様だ。

76号室のおばちゃんは、どうも、お局様と
あまり仲がよくないらしい。

お互いに、
お局様「ちゃんと、言うたとおりにやってくれへん。」
76号室「あーせい、こーせい、うるさいから
かなわんわ。」

76号室「ゴキブリがよく出て困ってるんよ」
お局様「うちには出えへん」 
76号室「そりゃ、あんたは、4階だからだろうけど、
うちは、1階やから、ゴキブリやら、やぶ蚊やら、
そりゃもう、ひどいのなんの」

「じゃぁ、上の階の空いている部屋に移動する?」
といっても、足が悪いから階段は登りたくないらしい。

・・・いうわけで、年中、ぶつくさ言ってる。

日常生活

おばちゃんは、近所のスーパーで働いているらしい。
足が悪いのに、大丈夫なのかな、と思うけど、
なんとか職場まではいけるようだ。

トイレが和式だから困ったらしく、
トイレにかぶせる便座を買ってきたらしい。
それを自分でカットしたもんだから、
ガタガタで使い物にならない。

75号室が「なんか、あげる、というので
貰ったんですけど、使えないんすよね。」って。
隣は、ゴミ箱じゃないってぇの。

退去した他の部屋をチェックしていると、
覗き込んできて、

「その傘、もらっていい?」という。

「いいけどさ、おばちゃん、傘いっぱいあるやん。
それに、整理せんとモノが多くて、
どうしようもない、っていってたやん」

「でも、そのタイプの傘はないねん。」

大体が、アパートは、台所3畳に部屋4.5畳
プラス押し入れって感じなんで、
寝るところを確保するには、ものを減らさんと。 
だから、ゴキちゃんがいるのさ。

それは突然に・・・

あるとき、管理会社の担当から、
「76号室さんから、生活保護の申請するので、
急いでハンコください、って言われてます。」と
連絡があった。 
とりあえず、押印して、行ってみると、
おばちゃんの元気がなさそう。

「しばらく、見なかったけど、どうしてたの?」

「転んで腰を打って、入院してた」

「ええ? そりゃ、大変やん。大丈夫なの?」

「しばらくは、仕事は休まんならん。ほんでな、
家賃が払えんかったらあかんから、
生活保護申請した。」

そんな心配、せんでいいよ、と言いたいが、
大家としては、心配してくれるのは、ありがたい。

遠い親戚

おばちゃんには、九州に姉だか妹だかがいるようだ。 
入院中に夫婦が車で様子を見に来て、
電動自転車をおばちゃんに買ったみたい。 
でも、「遠いし、もう、来れないから。
それにこっちも大変で、なんかあっても、
引き取れないから」と管理会社には伝えてきたらしい。

「おばちゃん、ピカピカの自転車があるやん。」

「買うてくれてんけどな。こんなん、乗らへん。」

と寂しそう。
なんとなく、自転車が手切れ金ならぬ
手切れ品であることは、薄々わかっているみたい。

再度の入院

まぁ、ブラブラしながら、
徐々に回復してきている感じ、
と思っていたら、管理会社から
「入院されました」と連絡が。
どうやら、部屋の中で動けなくなっていたのを
救急搬送されたらしい。

入院先を訪ねてみた。
わたしは大家だけど、赤の他人。
病院は、なんちゃら保護法だとかで、
なかなか病室を教えてくれない。 
最終的に、担当の介護士さんと一緒なら、
ということで面会できた。

アンパンマンとふりかけ

「来てくれると思うてたたわ。
また、会えると思ってた。」

「おばちゃん、どうしたの。 
良くなってると思ってたのに。」

「足の手術せなあかんねんけど、
心臓が悪いらしくて、できひんねんて。
先に心臓の手術せな。」
「ところでな、頼みがあるねん。
わたしの部屋に行ってな、箪笥の上にある、
アンパンマンの貯金箱持ってきてほしいねん。
緊急入院したから、一銭もなくて、パンも買えへん。」

乗りかかった舟なんで、仕方がない。 
翌日、アパートまで取りに行って、
駅から遠い病院までえっちらおっちら、
再びやってきた。 

「ありがと、ありがと。それでな、
下の院内ショップに行って、テレビカードと、
のりたまのふりかけ、買うてきてほしいねん。
食事がまずうて、ふりかけでもかけへんことには、
どうしようもない。」

「・・・・」

「ひよこの形のふりかけ。」

もう、こうなりゃ、どっちが大家か、わかりゃしない。

画像1

ひよこのふりかけを買って持っていったら、
「それ、それ!!」と、大喜び。

「それから、これは、今月と来月分の家賃。
すぐには、生活保護から支払い無いとおもう。
万が一、帰られへんかったら、
金めのもんは、全部、役所に持っていかれて、
そっちへの支払いがでけへんから。」と、
なんだか、ちょっと少な目めな気もするが、
アンパンマンから現金を取り出してきて渡された。

それが、おばちゃんに会った最期。

それから、おばちゃんは、手術が決まったようだ。
おそらく退院しても、一人では暮らせないだろう、
ということで、介護施設に入所することになった。 

施設の職員が部屋を片付けに来てくれた。 
ゴキの死体やらゴミは散乱したままだったけど、
箪笥もアンパンマンの貯金箱もなくなっていた。

おばちゃんが、乗ることがないであろう、
電動自転車も。

いいなと思ったら応援しよう!