「何気ない家族の日常〜父から花嫁へ。たった一つの贈り物〜」
プリンセスのおとぎ話に憧れた少女が
10月の花嫁となりウエディングドレスを身につける日を待ちわびている。
母から娘へ繋げられた、ハートの形のゴールドネックレス。
色や形、デザインが違うネックレスの数本の中から、娘が選んだハートのネックレスは
若き頃の……数年前にお星様になった父親が、
愛する妻へと贈られたネックレスなのである。
母親は娘に「このネックレスはお父さんに買ってもらったものなの」と、娘の前で一度も言ったことはない。
大学生1年生のある日、
「お母さんの持ってるハートのネックレス、私がつけてもいい?」と娘が言い出した。
祖母が愛用していた水晶のティアドロップ型のネックレスを、孫娘が形見離さずつけていたという話をふと思い出した。
娘は 母娘で愛用することになったハートのネックレスを身に付けることで、"目には見えないお守り代わり"になっているのだろう。
ジュエリーや貴金属は女性を華やかに美しく魅せてくれるが、お守りとなって、身を守ってくれるという効果もあるらしい。
娘の母親は常にハートのネックレスを身に付けていた。父親がいなくなった日常は、娘の口から父親のことを語られることは一度もなかった。
娘は母親の表情を感じ取り、「言い出せる状況ではなかった」と社会人になった娘はぽつりと言い放つ。
母から娘へと引き継がれたハートのネックレス。
娘のウエディングドレス姿を見ることは叶わなかった……父親からのたった一つの贈り物なのである。
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