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児童文学に登場する「木苺」と「コケモモ」の正体
この夏「バスでちょっと行った」ぐらいの場所にある森で、2度もブラックベリー摘みをした。
誰かの家の庭や、ほんとうに”そのへん(例:バス停の横の茂みとか)”に生えているのを見かけることはあったけれど、森の中にこ~んなにも自生しているものだと初めて知ったのです。
摘んでも摘んでも、大きくてしっかり熟れたブラックベリーがそこかしこに。本当に、夢中になって摘みました。
長くイギリスに住んでいるけれど、まだまだ知らないことは多いのだと痛感することしかり。
そして摘みながら「これってまさに、子供のころ、絵本や児童文学で読んで憧れた『森でイチゴ(ベリー)摘み』だわ~!」と思い、ひとりでジトッと感激してしまいました(笑)。
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↑森の中に、ブラックベリーの茂みがこんもり。写真の向こうにいるのは、今回森に連れて行ってくれた知人です。子供時代の夢がかないました。Yさん、ありがとうございます。
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「イチゴ」というと日本では「ストロベリー」のことだけれど、「ベリー類」はストロベリーに限らずいろいろある。ブラックベリー、ラズベリー、ブルーベリー、クランベリー、グースベリー等々、全部「ベリー」である。
摘みながらふと「ところでブラックベリーって日本語で何ていうの?」「これだけ自生しているのだから、英国児童文学にも登場しまくりのはず…」と2つのことが頭をよぎった。
■ブラックベリーもラズベリーも「木苺(きいちご)」らしい!
調べてみると、ブラックベリーは「キイチゴ属」。えっ、木苺?
木苺はどちらかといえばラズベリーのことをいうのかと思っていた。
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ブラックベリーもラズベリーも同じキイチゴ属。よって、日本語への翻訳の場合、どちらも木苺と訳されている可能性がある。
色が全く違うので、どちらも「木苺」では何だかイメージが違ってしまう。この辺に海外文学の翻訳の難しさが垣間見える。
イギリスの場合、「自生(野生)のラズベリー」はあるものの、基本ラズベリーはお店で買うものだ。「自生のブラックベリー」ほど頻繁に出会うものではない。
となると物語の中で
●子供たちが森に木苺摘みに行く場合の多くはブラックベリー
●庭で木苺を摘む場合はブラックベリー、ラズベリーどちらもの可能性
ということなのかもしれない。日本語訳に「黒い木苺」「赤い木苺」と色を明記していれば分かるけれど、この辺は原文とつき合わせて読み合せしないと分からない。
今ぱっと思いつくところで「ピーターラビットにでてくる木苺は?」と思って調べてみた。
例えばこの2つのシーン。
上:ピーターのきょうだいの、おりこうさんの3匹(フロプシー、モプシー、コトンテール)は、お母さんが買い物に行っている間に木いちごを摘みにいく。この場面の原文は「ブラックベリー」となっている。
下:いたずらをしたピーターは、カモミールティーを飲まされて寝かされてしまいますが、おりこうの3匹は、パンとミルク、そして木いちごを夕ご飯に食べます。この場合の木いちごも「ブラックベリー」。
なるほど、今まで「木“苺”」と思うと赤い色を思い浮かべていたけれど、今後はもうちょっと脳内変換をしなくてはならないことが判明。森でのブラックベリー摘みで、思わぬ発見をしたのだった。
(余談だが、ブラックベリーは熟れるまでは実が赤い。その辺もちょっとややこしいが、赤いブラックベリーは食べても酸っぱいので基本は誰も摘まないはずだ。)
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↑森で摘んだブラックベリー。熟れているものは手を触れるだけで実が落ちます。黒光りしてつやつや。洗ってひとまず冷凍しました。
■ついでに「コケモモ」のことも思い出した
そんなことをウラウラ考えていたら、「コケモモ」のことも思いだした。
「ムーミン」や「スプーンおばさん」など、多くの児童文学に登場するコケモモ。たしかスプーンおばさんの夫はコケモモのジャムがないと機嫌が悪くなるぐらいのお気に入り。
どんなものだか分からずずいぶん想像したコケモモ。つい「コケ」と「モモ」と考えてしまい、う~む、挿絵を見る限りコケ感も桃感もないので、ますます想像がしづらかった。
↑こんな感じのイラストが多く、子供なのか小人なのか妖精なのかでサイズ感も分からず。
そういえばイギリスでコケモモの事をほぼ聞かない。英語ではリンゴンベリー(Lingonberry)またはカウベリー(Cowberry)というが、この2つは厳密には別亜種らしい。
In Sweden, having one's menstrual period is sometimes called LINGONBERRY WEEK.
— Quite Interesting (@qikipedia) April 27, 2020
(Image: Dawn Endico.) pic.twitter.com/QwHqOdTcCB
↑スウェーデンのツイで紹介されているリンゴンベリー。表皮がつるっとしているように見えますね。スグリよりは大粒、ブルーベリーぐらいの大きさに見えます。
もうちょっと調べると、リンゴンベリーもカウベリーもクランベリーも、さらにはブルーベリーまでもが「ツツジ科スノキ属(Vaccinium vitis-idaea)」なことが分かった。
一体どれのことを指すの?コケモモちゃん…。
青い実のブルーベリーも一緒にされるとややこしいのだが、全部コケモモと訳されている可能性もあるのでは?という疑問がわく。
コケモモはイギリスでも育つらしいが、児童文学的には北欧の物語によく登場する。なので「北欧で、“皆が摘みにいく”レベルのもの」が正解のはず!と思ってググってみると、北欧でいう「コケモモ」は「リンゴンベリー」を指しているようである。「リンゴンベリーを摘んだ」的記事やらブログやらSNSがたくさんでてきた。
少なくとも、ムーミン(フィンランド)やスプーンおばさん(ノルウェー)に登場する「コケモモ」は、リンゴンベリーのことらしい。
//www.instagram.com/p/CEbjsmpMzua/embed/
↑ぷっくり丸みのある葉の形が挿絵で見たのと似ているので、これなのでしょう。
↑こんな風に出荷されているようです。
イギリスでよく見かけるRedcurrant(フサスグリ)にもやや似ていますが、実が房状なので見分けがつきます。
↑こちらは「フサスグリ(redcurrant)」。他にもスグリには「クロスグリ(Blackcurrant=カシス)」「セイヨウスグリ(gooseberry)」などいろいろあるので、こちらもややこしいです(笑)。
イギリスではラズベリーやストロベリーのジャムほど一般的ではないものの、リンゴンベリーのジャムも売っているよう。近々購入して味わってみようと思う。
■まとめ
今回の一応の結論:
●日本語訳が「木苺」の場合、ブラックベリーの場合もラズベリーの場合もあるようだ。
●木苺を「森に摘みに行く」場合は、ブラックベリーの可能性が高いと思われる。
●北欧児童文学によく登場する「コケモモ」はリンゴンベリーのことのよう。
児童文学関係のことを調べると、楽しすぎてやめられないと同時に、生活文化は深くて多様で、調べるのも一筋縄ではいかないのだなあと毎回感じます。