専業主婦歴20年 浦島ハナコの病院受付奮闘記#3 <開院初日>
貴方の職場はホワイトですか? おめでとうございます。そのままずっと腰を据えましょう。
まさかのブラック……? 残念ですがお仲間ですね。
就職活動はしんどい、にもかかわらず採用された職場がブラック企業だったら?
悩んでいる暇はない。さっさと転職しましょう。時間は無限ではないのだから。
私の反省を込めて贈りたい。あなたのこれからの選択の助けになりますように……。
<開院初日>
いよいよ待ちに待った開院当日、私は早めに出勤したが、もうすでにほとんどのスタッフが出勤していて掃除や準備をしていた。
なるほどなかなかみんな気合が入っている。
研修中にスタッフの連帯感が高まっていたので、クリニックは協調性抜群のコラボレーション。あふれんばかりの熱気に包まれていた。
一通りの準備が終わり、各部署で最終確認作業が行われたあと、開院時間直前に院長から朝礼の挨拶があった。
「みなさんこれまでの準備等ご苦労様です・初日の今日は大切です。元気よく笑顔で患者さまに接してください。それじゃ~よろしく~」
そう告げると、右手を挙げてガッツポーズをした。
まるでこれからスポーツの試合をするかのようなノリである。
あれ? 私の憧れる病院のイメージとは違うな。
少し不自然に思ったが、スタッフ一同えいえいおーの掛け声とともに、慌ただしく診療がはじまった。
初診の患者さんは、まず一階の受付で問診票を記入し、順番が来ると診察室に呼ばれる。
診察後、レントゲンを撮り、必要な治療が始まる。
私の仕事は、リハビリ治療が必要となって二階に案内された患者さんに、これからの治療内容の説明をする。
その後、電気治療をするための器具を取り付け、治療内容・効果を確認しカルテに記入していく。
そのほかには理学療法士のサポートや予約患者の予約を取り、電子カルテに入力していく仕事が主だが、患者さんが気持ちよくリハビリ治療ができるための工夫や、毎日通いたくなるような明るく・元気な雰囲気作りも重要な役割とされていた。
今か今かと待っていると、遂に最初の患者さんが二階にあがってきた。
私の持てる最大級の笑顔で近づくと、
「いろんな病院に通ったけれどなかなか良い病院が見つからなくてね」
開口一番そう言われる。
どうしよう、こういう場合はなんて答えるのが正解なんだろう?
緊張で顔が引きつる。
しかし、今の私にできることは一つしかない。
兎に角、笑顔! 笑顔!
最後まで笑顔だけでごまかしたように思えるが、帰り際に「良い病院だね、また来るよ」と言ってもらえた時は、安堵で体から力が抜ける感じがした。
次の患者さんは険しく不機嫌そうな顔をしていた。
わ~ 気難しそうだな~。
足が竦むも笑顔はやめ、ゆっくりと近づく。
彼女は何も言わず静かに指定された席に着いた。
電気治療をしている間、視線を感じてその患者さんの方を見ると、何か言いたげな顔でこちらを見ている。
「どうかなさいましたか?」
恐る恐る声をかけてみる。
「もう10年も肩の痛みが治らないの、私は治るのかしら」
諦めたようにため息をつく。
いや、困った! 私は、まだ入って間もないほやほやの新人なのよ。医療知識もないし、治るかどうかなんてわからない。見た目はベテランかもしれないけど!
だがそんなことは言えない。
「患者さんの前では堂々としていなさい」
ふと理学療法士の言葉が頭に浮かんだ。
「うちの医師と理学療法士は優秀ですのでご安心ください」
胸を張ってそう答えた。
次の患者さんは尿意がきつかった。一人暮らしで誰も面倒を見てくれないとこぼしていた。
その後何人の患者さんの対応をしただろうか。あっという間に時間が過ぎ去り、気付けば怒涛の一日が幕を閉じていた。