【出産の記録#3】陣痛室から分娩室へ
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10:00ごろからずっと1人で陣痛と向き合ってきました。どんどん強さを増す陣痛にパニックにならないよう、ひたすらに息を吐き続けて「もうすぐ会えるね。私たちを選んで来てくれてありがとう」と繰り返し頭のなかでお腹の赤ちゃんに語りかけていました。上手に息を吐くのが難しくなった時は「ありがとう」って声に出しながらお腹を撫でてみたりもしました。
長い1日のなかで胎児の心拍を測っている機材がエラー音を発することが何度かあり、その度に助産師さんが「赤ちゃんちょっと心拍上がってしまっているね〜」と様子を見にきてくれて「それでも元気だよ〜大丈夫」と励まされて。ただひたすらにいきみたくなるという感覚が来るのを待っていました。
21:00ころだったと思います。ひどい生理痛のような痛みが骨盤あたりに響いていたのが、極度の便意を感じているような感覚を股下あたりに感じるようになってきました。
でも、これがいきみたいという感覚なのかわからず「いきみたくなっている気がします……」と曖昧に助産師さんに伝えました。助産師さんは「妊婦さんが出産と一緒にお通じがあることはよくあることなので気にしないでくださいね〜」と言いながらも子宮口の開きを確認するため触診をしてくれます。
そして「子宮口9.5cmかな……開いてるっっ!分娩室へ移動しましょう!!」とちょっと驚いた様子をみせます。私はあと数時間耐えると思っていた陣痛のゴールが見えてきたことに、ただただ安堵しました。「あと少しで赤ちゃんに会えるんだ……」
「旦那さんに連絡してもいいですか?」私の受診していた病院では、立ち合い出産の場合、陣痛室に入ってから妊婦自身が立ち合い希望者に連絡を入れなくてはいけないというルールがありました。約半日1人ぼっちで飲まず食わず過ごしていたからこそ、この時ほど心細さから「旦那さんに会いたい」と思ったことは無かったかもしれません。
助産師さんも「どうぞどうぞ!私も必要な連絡入れてきます!」とバタバタと各所に連絡をとりながら準備を進めてくれているようでした。
いざ分娩台へ
21:25。旦那さんへのLINEを終えて私は両手に点滴を刺しながら、ヘロヘロと自分の足で歩いて分娩室へ入りました。
あのドラマやドキュメンタリーで見たことのあるピンク色の椅子。点滴が絡まないように慎重に動きながら分娩台へ上がります。「まずはお小水を抜いて準備をしますね」と言われ、されるがままにカテーテルのようなものを尿道へ通されます。プチっとした鋭い痛みが1度あって「今お小水を抜いています〜」と声をかけられました。普段ならまぁまぁ羞恥心が顔を出してきそうな状況ですが、この時は気持ちの高揚もありそれどころではありません。さらに、助産師さん2人に子宮口の触診をされます。この段階で「子宮口全開」と言われました。
「まだ赤ちゃんを包んだ膜が破けてないのでサポートしてあげましょう」といつのまにか足元に立っていた白衣をきた女医さんに言われると同時に、処置をされたようで、生温かい先ほどの破水とは比にならないほどの水分が流れて落ちていく感覚が訪れました。
さらに続けて「子宮口全開なのでここからいきんで大丈夫です。何度か私の誘導に合わせていきんでみましょう」と助産師さん。「目は閉じないで」「息は吐かないで止めてみて」「そうそうそんな感じ」と、何度かシュミレーションをしてみます。
このあたりで旦那さんが到着。遅い時間にも関わらず、連絡をみて家から自転車を飛ばして来てくれたようです。私の頭のあたりに立ってそっと肩に手を置いて頭を撫でてくれました。
出来れば避けたかった会陰切開
「痛みがきそうです」と私がいうと、助産師さんが私の呼吸をみながら、「ゆっくり吐いて〜吸って、いきんで〜!!」というようにタイミングをとってくれます。自分でも驚くほど冷静に助産師さんの声を聞くことができていました。
旦那さんと助産師さん2人と女医さん1人に見守られながら5〜6回いきんだあたりで「赤ちゃんちょっと疲れてきちゃったので入り口を切ってサポートしてあげましょう」ということになり、出来れば避けたいと思っていた会陰切開が決まりました。麻酔の注射を刺されたのちに、私のいきみに合わせてバツン、バツンとハサミを入れているような音が響きます。(実際にハサミで切られていたかどうかはわからないのですが、処置をされた感覚はハサミでした)
この傷、後で縫うんだよなぁ……、数日歩くのも辛いんだろうな……トイレも地獄だろうな……、陣痛と闘いながらお産を進めているにも関わらず、会陰切開の苦悩について考えを巡らせていました。
赤ちゃんが出てきた感覚は「にゅる」
22:22。会陰切開をしながらいきむこと3回、にゅると何かが出てきた感覚がありました。「もういきまなくていいですよ!」と助産師さんに言われると同時に陣痛の痛みが嘘みたいにすぅーと消えていきました。
仰向けで寝転がり膝を立てた状態では、着ているワンピースが邪魔をして私の足元で何が起こっているのか目で確認することはできません。「産まれたの?赤ちゃん泣かないの?」きっとそれはほんのわずかな時間だったはず。それなのに一瞬が永遠に感じるような無音の不安な時間がありました。
そんな「ため」を経て「おんぎゃー」分娩室に綺麗に赤ちゃんの初声が響きました。お手本のような泣き声に「産まれた……」と身体の末端の部分から、徐々に温かい感情で満たされて身体が一層熱を帯びてきます。
「私、赤ちゃん産んだんだぁ……」どこか他人事のような現実味のない興奮を心の底から味わっていました。