自傷癖の話
※注意 オーバードーズ、リストカットの描写があります
14歳〜16歳頃、私は心療内科で処方された「リスパダール」と「エビリファイ」という薬を飲んでいた。診断書にはうつ病とか自律神経失調症とか書いてあったはずだが、おそらく自傷癖(アームカット)があったことと神経症的な症状+妄想的な(統合失調症的な)の間(いわゆる「ボーダー」)のような様相があったので、境界性パーソナリティ障害の疑いありとして処方されていたのだと思う。
当時あまりよく分かっていなかったのだが、エビリファイは主に双極性障害、つまり躁鬱病、リスパダールは統合失調症に対して処方されるもので、そこそこ薬効の強いものらしい。
それを1日3回、1錠ずつ飲んでいた。
私としては薬を飲んでもあまり効果を感じられなかった。自傷行為も治まるわけではなかったし、死にたいという気持ちもずっとあったし、体もだるくて仕方なかった。
私はオーバードーズを何度かやってしまったことがある。
そのうち1度、リスパダールをオーバードーズに使用した。壮絶だったので今も覚えている。
錠剤のリスパダールを、たしか2〜3シート分くらい?貯めてあり、それを全部シートから出して水でちびちびと飲んだ。
寝る前まではなんともなかった。
夜中に、急に息が出来なくなって飛び起きた。
当時は母親と二人暮らしで、夜はリビングに2つ布団を敷いて一緒に寝ていた。自傷癖があり不登校だった私を心配した母がそうしてくれていたのだ。
私は、息を吸えない、薬をたくさん飲んだ、と断片的に母に状態を説明し、慌てた母は救急車を呼んだ。
救急車が来る頃には、自分の意思と逆らうように、喉が閉まる?ような感じがして思うように呼吸ができず(一定の時間息が吸えず、意識が飛びそうになるギリギリでやっと吸える感じ)、動かそうとしていないのに口が勝手に開いてしまう状態になっていた。
これは後から調べたのだが、リスパダールの副作用として口周部の不随意運動や、筋強剛などがあるそうで、私はこの時まさにこの通りになっていた。首から上の筋肉は全て私の意思がきかなくなっていた。
地獄の夜だった。自業自得だけど、二度とオーバードーズなんてやるものかと思えたくらいには酷い夜だった。
搬送先で病室に入れてもらい、点滴をしてもらって、(薬を飲んでから時間が経っているので胃洗浄しても遅いから)薬が抜けるまで待つしかないと言われて病室のベッドで一晩苦しんだ。
母も病室に付き添ってくれた。
翌朝気がつくと、口周りの強ばりと呼吸困難はなくなっていた。
看護師さんが様子を見に来てくれた。
看護師さんは、私の腕の傷を見て、「私も若い頃こういうことをした時期があった」と共感を示した上で、「もうしちゃダメだよ」と言ってくれた。まだ若い人だったけど、綺麗で芯の強そうな女性だった。
私は医師の判断で念の為1週間ほど入院して、その後退院した。特に後遺症等も残らなかった。
リスパダールのオーバードーズの前にも、頓服のデパスや市販の頭痛薬、エスタロンモカというカフェインの錠剤などを用量を超えて飲んだことがあったが、頭痛がするとか気分が悪くなる程度で大したことにならないことが多かった。私は薬というものを舐めていたのかもしれない。
オーバードーズをする理由は、ストレス発散だったり、フワフワした気分になりたい時だったり、現実逃避だったり、自分を害する(罰する)為だったりした。
高校生の頃にはオーバードーズやリストカットの頻度が減り、やがて完全になくなった。
成人してからは時々アルコールに依存しかけたり、車で無謀な運転をするなど時々自己破壊的な行動に走ってしまうこともあったが、腕は切らない、オーバードーズはやらない、と自分の中で線引きをしていた気がする。
ごくごくたまに、腕を切りたくなった時は、腕を切った時の血が吹き出てくる情景をなるべく鮮明に思い出すことで、自分を抑えるようにしている。(私の場合、血が出る様子を頭で想像するだけで満足できるようになった。思い出すことで余計に切りたいという欲求が強まる可能性もあるのでむやみにおすすめはしない)対処法の書かれた書籍によくあるのは、赤いペンで腕に線を書くといった方法だけど、私の場合はあまり効かなかった。
私のリストカット、アームカットは死ぬためのものではなく、もっぱら「血を見てスカッとする」のが目的のものだった。
すごく深く切って(腕を切り落とすくらいらしい)、お風呂にぬるま湯をはって浸かっていれば失血で死ぬこともあるらしいが、私にそこまでする勇気もなかったし、縫合が必要なほど(黄色い脂肪が見えるほど)切るのは怖かった。
スっと線が入る程度の本当に浅いものから、傷口がぱかっと開いて中のピンク色が見える程度の傷をつけて、血が沢山出るのが嬉しかった。
血が見たいだけだったのだと思う。痛みを感じたいというより、赤い血を見てスッキリしたかった。
腕を切ってそこから血が出ると、地に足がつかない感じというか、現実離れした気分になって高揚感があった。血に濡れた腕は美しく、その瞬間は自分が誇らしく思えたものだった。第三者から見ればおぞましく、理解できないことだとしても。
時々、学校のトイレで腕を切り、制服のシャツを血に染めて保健室に行くことがあった。
保健室の先生は特に騒ぎ立てることはせず、あー、やっちゃったかーという感じでいつも優しく手当をしてくれた。
それが嬉しくもあった。腕を切る事で、優しくしてもらいたい、気にかけてもらいたいという動機もあったのかもしれない。
先生が優しく巻いてくれた包帯を撫ぜると、やわらかいガーゼの感覚に少しほっとしたものだった。
もし、このnoteを読んでいる人の中に、自身が自傷行為をしている、もしくは、周りに自傷行為をしている人がいる、という人がいれば、まずお願いしたいことがある。それは、その行為を頭ごなしに否定しないで欲しい、ということだ。
自傷行為の動機やきっかけには色んな要素が絡んでいて、人によってその意味も様々だ。
自傷行為をすることで自分が生きている感覚を取り戻すという人も中にはいる。
たしかに、自身の体を傷つける行為はいい事ではないが、何の事情も聞かずにただ辞めろと言うのはやめて頂きたいのだ。
もし、あなたが自傷行為をしているのなら、その行為をやめたいとおもっているのなら、まずはその行為をしたくなった時に10秒でいいから目を瞑って深呼吸をしてほしい。
あなたの大切な人が自傷行為をしているのなら、まずはあなたがその人を大切に思っていることを落ち着いて伝えてあげて欲しい。
無理やりに刃物や薬を取り上げることなどは、より危険な行為に走る可能性を助長することがあります。
周囲の人はまず見守ること、落ち着いて、気にかけているということを本人に伝えること。辞めなければと思えば思うほどドツボにはまりやすい。