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俺の、俺だけの不幸みたいな感じで、自分の中でなってたんです(2024/8/11 鹿熊健さん)
これは私たちが誰かの話をきき、なるべくそのままを書き残すことで、現代に生きる人の生活や思想をアーカイブしていく試みです。ターニングポイントに関するお話をしていただき、あわせて、姿を写真に収めさせてもらっています。
――元々送った企画書というか、あれは読んでもらったと思うんですけど。
はい、ターニングポイント。あ、これどんどんしゃべりはじめていい?
――あ、どんどん。もしなんかしゃべりづらかったら……
あ、いや全然、大丈夫で。そう。ターニングポイントっていうので……やっぱ一番、考えると、妻との出会いみたいな。ちょっとありきたりで、どうかなっていう(笑)
――いやいやいや、全然!
ふうに思ったけども……というところかなと、思ってます。
――そうなんだ。へえ、A(※配偶者、以降Aと表記)との出会い。
そう。どっから話せばっていうところで、自己紹介というか、バックグラウンドみたいなところから、簡単にお話させてもらうと。自分は茨城県の水戸市っていう、母親の実家のあるところで生まれて、父親は公務員で、結構その森林管理とかそういう仕事だったんで。転々として。自分が生まれた当時も住んでた……あの、父親と母親が住んでたのは、青森県の佐井村っていう、なんだろう、下北半島の逆サイドっていうか、北海道側みたいなところで。大間とかもあるようなとこだったんで。父親は、北海道札幌生まれなんですけど、父方のおばあちゃんは、函館からフェリー乗って、逆サイド、青森にたまに面倒見に来てくれたみたいな感じで。その後も群馬の水上とか、山奥とかに。で、物心ついてから、まあ小学校上がる前ぐらいから西東京の東久留米市っていう、こっから3、40分ぐらいのところで育って。その後うちの父親は単身赴任で行ってもらって、ってことなんで、自分自身はそのままその地元の小中を出て、高校から中野の方に行って、東京の大学に進学してみたいな。で、社会人になって、ずっと新卒から同じ会社で、東芝ってあの、電機メーカーの東芝で働いてます。
東芝では調達部門っていう、モノを購入するっていう、いろんなそのサプライヤーさんとか取引先さんとの契約とか納期とか、価格の交渉とかをしてプロジェクトを進めてくみたいなのでずっとやってるんですけど。キャリアの前半は、太陽光発電所の関連機器や太陽光パネルの調達担当をしてました。ちょうど10年ぐらい前にいろいろと政府の補助金制度が導入されて急速に普及が進んで。多分、何となくその、やたら畑とかが太陽光パネルになったなーとか、家の屋根につき始めたなと気づくこともあったかもしれないんですけど、それがちょうど私が社会人になった2010年前後ぐらいだったんです。台湾とか中国にあるサプライヤーに製造委託する仕事です。製造委託というのは、Appleとかと一緒で、製造はFoxconn(フォックスコン)っていう台湾とか中国の会社がものづくりをして、ただ設計やブランドはAppleみたいな。太陽光パネルも同じようなスタイルで、ブランドは東芝で、まあ日本の中では安心というか、なんとなく知名度があって。中国とかですごいいっぱいモノ大量に作ってるけど日本では知名度とかブランドがないからっていう、ただ値段はすごく安いみたいなので、その両者のいいとこ取りで。日本では東芝のブランドでまあまあ知名度あるし、値段は中国ですごい大きな工場を作ることで競争力ある……みたいな、そういうやつを仕入れてきて、日本で発電所を作るみたいなのをやっていて。そっからインドに研修に行かせてもらって、鉄道のプロジェクトに関わるようになって。東芝ってあんまりイメージないと思うんですけど、新幹線とかを作っていて。新幹線の車体そのものじゃなくて、下の電車の「電」の部分というか(笑)。電気を変換して、線路とかケーブルから電気をとってきて、それでモーターを回して、電車って動いていくっていう。なんかミニ四駆の世界っていうか。だからそのスピード250kmとか出て、それでちゃんと止まれて、みたいな。そういうのを東芝とか日立とかも作っていてっていうので。東海道新幹線のその電気の部分、モーターとかそういう部分は、半分以上が東芝だったりみたいな感じで、っていうところなんすけど。その部門が、府中って東京の西のほうに工場があって。そこに6、7年前から今まで勤めてます。今は台湾で電気機関車、電車を作って、台湾のJR(鉄道会社)みたいなところに供給するプロジェクトをやってますというのが、仕事としてのプロフィールですね、はい。
――へえ、すごいな……ありがとうございます。それでAとの出会いが、ターニングポイントになるんだ。
そうね、ターニングポイントっていうところで言うと、そのキーワードをもらったとき、すごいなんかオリンピックのことを思い出して。ちょうど社会人になって2年目ぐらい、2014年ぐらいに東京オリンピックが、次の次ぐらいかな? 東京オリンピック決まりましたってときに。
――ああー、はい。
その時点では、なんか全然……自分、その頃(東京オリンピックが開催される2020年)になったら32歳とかだなーみたいな。まったくなんか自分が、32歳まで生きてるっていうか、あんまり何してるかとかって、全然イメージ湧いてなくて。そんなに、働くこととかも、なんか何となく周りが働いてるから働いてるとか。なので、たまたま入った会社が……周りも就職活動してるし、だから自分もやんなきゃみたいな感じで、そんなに自分が仕事としてこうしたいみたいなのがないまま働いてたんで。本当に当時の時点では、全然、この後自分って仕事とかどうすん……なんだろう、32歳で自分が家庭を持ってとか、仕事をし……どういう仕事をしてとか、イメージがまったく持てなかったなっていうところから、今2024年時点で、こうして、パートナーも一緒に、まさかこんな家を、中古マンション買ってリノベーションしてみたいな(笑)すごく生活に対して地に足をつけてやってるっていうのが当時、今ではそれはすごい楽しんでるけど、当時ってのはそんなことまったく想像してなかったなっていうところで。そういう意味でその変化点って、やっぱりAちゃんと会えたことっていうのは、本当に大きかったなってのは、今、改めて思ってますね。
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――なるほど。それでオリンピックの話出てきたのがなんか、意外(笑)
ちょうどなんかね、何となくオリンピック……あのときに、だから7年後とかだったと思う、2014年、6年後か。だから、その時点ではまだ自分って、6年後のこととかって全然考えられてなかったし。なんか、破れかぶれとまでは……あの、自暴自棄とは言わないけど、なんかあんまりその、ずっと将来こうしたいとか、こうなっていくとかって、自分でこうしたいとかってのもないまま。
――へえー。会社はじゃあどうやって選んだの?
いやだから、本当に、自分探しみたいのがすごい苦手、その自己分析みたいなのも本当に苦手で。なんか、1年間留学とかする学部に、早稲田の国際教養学部ってみんな1年間、卒業までにアメリカに行かなきゃいけないから。
――あっ、え、かならず?
かならず。じゃなきゃ卒業できないみたいな。
――じゃあ4年のうち1年はみんな海外?
そう、そう。
――ええー! すごい! 知らなかった!
そう、だからその、1年間アメリカで留学してました英語もしゃべれます、みたいな。それであれば結構なんか最終面接とかまではまあまあいけるけど、でも結局自分で仕事とかに対してのイメージも何もないから。
――うんうんうん。
ただ、周りもみんな面接受けてるし、なんか俺もやんなきゃなみたいな感じだったんで。で、たまたま父親が公務員だったから、なるべく、どうせ働くなら、なんか公共性が高いっていうか。広く世の中の役に立つようにみたいな(笑)感じで、言ってたまたま採ってくれたのが今の会社だったって感じで。国際教養学部に入ったのも、自分ハリー・ポッターが好きで、バスケットとかやりながら、休みの日とか、休み時間はずっと教室で本読んでるみたいな感じだったんで。ハリー・ポッターって、まだその時点では原作が完結してなかったんで、原書が英語で出てからやっぱ翻訳に1年とか2年経っちゃうんで、待ち切れなくて。
――おお!
そうそう、英語で読めたらいいなみたいなところで。だからなんか、英語で海外の人とコミュニケーションとりたいとかじゃなくて、英語でハリー・ポッター読めたらいいなから(笑)
――えー! すごい。
たまたま英語だけは高校時代も勉強してて、たまたま英語の点数がよかったから、その早稲田の国際教養は英語のウェイトがすごい高いし、授業もほぼ英語だしみたいなところに入れたってのがあって。
――そうだったんだ! すごいな。
それ以外はでも、小学校は少年野球やって、中高はバスケットの部活ひたすらやって……だから本当に、ほぼもう部活やって、寝て、で空いてる時間たまにそういうファンタジー小説を読むみたいな。その児童文学とか、ハリー・ポッター読むみたいな、本当に結構シンプルな暮らしだったから、全然なんか自分の中で、これがやりたいとか、こういう趣味があるとかでもないし。仕事に対しても、塾の講師とか居酒屋でバイトして、とかだから、自分にとっての好き嫌いみたいなものをあんまり育てる機会もないまま、きちゃったんだろうなっていうのはあったんで。だから、そういう意味で本当にキャリアの面でも、日々頑張るというか、目の前のことをやるけど、自分としてなんかこれをこうしたいとかっていうのもなくて。
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――うんうん。
その生活の面、生活というか個人的な面でも、やっぱりその……Aちゃんと自分の共通点のひとつ、すごいいろいろバックグラウンド近いんですけど、やっぱその、2人ともいわゆる「きょうだい児」って言われる、姉に知的障害があってというので。自分も3つ上の姉が発達障害があって、Aちゃんのお姉ちゃんも自閉症でってことで、やっぱ自分も、学生時代彼女とかはいたことはあったけど、やっぱ結婚とかってなると、すごいその、え、家族にどうやって紹介しようとか、なんか……あと親が死んじゃった後、俺とみっちゃん、みっちゃんって姉なんですけど、俺がみっちゃんの面倒見てくのかなとか、なんかいろいろ家族になるって言った瞬間に、どうしよう、なんて紹介しようとか、多分その20代前半って特に本当に親しい地元の友達とかは知ってるけど、それ以外の人たちに対しては、その自分の姉に障害があるとかってことを言えなくて。だから結果的に言えないってことは、結婚とかはしないだろうなみたいな。
――ああー。
で、仕事でも今の会社で頑張ってるけど、そんなにすごく好きでこれをやってるとかって感覚もないから、結局はそういうのがいろいろあって、なんか先のことを考えるとやっぱ常にちょっと気が重いというか。あんまり……そう、今はそれなりに頑張ってるけど、ちょっと先を見たら、全然何もぼやけてしまってというか。っていうのが結構、20代前半から、本当にAちゃんに会うまでの時間みたいなところで。まあ日々それなりに仕事をして海外出張行ったりとか、飲み会行ったりとかっていう、それでなんか日々は進んではいくけど、顔をあげた瞬間の次のステップっていうのはずっと描けないままいたっていうのが、ターニングポイント前だったなっていうふうに思いますね。
――それって……なんか、その、先が見えないなっていう状態は、やっぱ肯定的には捉えられない感じだったのかな。
そうね、肯定的には捉えられ……すごく、おぼろげだけど、なんか先のことを考えると、ちょっとじんわり変な汗出るみたいな感じで。
――不安、みたいな。
不安、不安。だからどっかでなんか病気で死んじゃうとか。積極的に死んじゃおうとは思わないけど、なんか……あんまり……やだな、やだけどなんかどうしようもない、なんで自分なんだろうみたいな。多分。何となくその行き場のないモヤモヤ、怒りとまでは言わないけど、不安感っていうか。なんで自分なんだろうなみたいなのはたしかにちょっと。なんかその……周りの人はそんな心配とかしてない中で、自分……
――その家族のこととかが?
あ、そう、家族のことに関しては他の人は多分考えてない、けど自分だけはこういう思いを持ってるんだろうなーみたいな。で、何となくただ不安というよりは、ちょっと不条理さに対しての怒りというか、なんか納得いかない感みたいな。でもそれでアクションを起こすってよりは、もう「どうせ俺なんて」みたいなどっちかっていうと、自暴自棄感みたいな方が……なんか具体的にアクションを取るわけでもないし、普段は別に、日常としては、目の前の仕事だったりとか、友達との付き合いとかで9割ぐらいは今を向いてるけど、たまにあんまり……その、ちょっと先は考えないようにしてたなっていう。
――なるほど。一番の不安は、もし親が何かこの先、動けなくなったりとか、本当にもういなくなっちゃったりっていうときの不安が一番大きかった?
そうそうそう。そうなったら、うちのお姉ちゃんと俺と一緒に2人で暮らしてくってどうするんだろうとか。そもそも、じゃあ付き合ってる人がいて、その人と結婚とか、そのステージ、フェーズに行ったときにどうしようみたいなとか、なんかそういう……
――そっかそっか。
そう、だから自分がライフステージを進めようとすると、問題と絶対どっかで向き合わなきゃいけなくなっちゃうから。
――実際の不安っていうよりも、まずその、なんだろう、付き合う人とかに言うっていうことのハードルとかそっちのほうが……
あーそうそう。だから付き合う時点でそれを言える言えないとか、言わなきゃなーとか。ズルズルしてると、自分も家族も年取ってっちゃうし、とか。すごくそこは常に何となく自分の中では、それを考えると「もうなんか全部いいや」みたいな感じの気持ちになりがちだ……たまにそういうモードに入ってたなっていうのは、ありましたね。
――わか、わかりますっていうのはおかしいけど、なんかその、すごい伝わってきた感じがします。
だから本当に、常にその8割ぐらい、8割9割は仕事してれば別にそういうことって家族のことって考えなくても、別に日々は回ってくけど、やっぱその10%の部分で、たまに……っていうところはあったかな。
――うーん。Aと出会ったときって、その境遇が似てることは、お互いわかってなかったよね?
あ、そう、その時点で本当にわかってなくて。当時自分……2018年ぐらいは、インドから帰ってきた後で。インドで新しい工場を建てるみたいなプロジェクトに関わってたから、大きなプロジェクト終わったから今度はドイツ行こう、みたいな感じで(笑)
――忙しい……(笑)
そう、とにかくドイツに行って新しい会社を立ち上げて、そこで機関車を作るぞみたいなとこのチームに声かけてもらって、個人的にすごく海外展開だし、頑張ろうという気持ちで、っていうときにたまたま、本当マッチングアプリで、全然その(相手のプロフィールが)メーカー出身で、茨城生まれかなんか……で、あとドイツにいたことがありますみたいなので。あ、自分今ドイツにいますみたいな感じでメッセージを送って(笑)
――おおー!
今度帰ったら会いましょうみたいなところで、会って。それで、そのマッチングしてからちょっと出張とかで1ヶ月ぐらい経った後にはじめてご飯食べたときに、そう、実は2人とも姉に障害があってみたいのとか、そもそも、すごいいろんな共通点が見つかって。
――へえ、初回でもうその話が出た?
そう! ものすごい、本当に……いきなり次の日から、その初回会った日、日曜日なんだけど、
――よく覚えてるね!(笑)
そう。次の日、自分はドイツにまた出張に行くっていうので、Aちゃんも当時なんかコンサルで京都で仕事してたから、次の日朝5時に起きて、今日京都行くっていうのに、話盛り上がっていきなり、2人で白ワインかなんかのボトル空けて、めっちゃ、めっちゃ酔うまで2人で飲んだりとかしたっていう。そう。すごい、今もすごい覚えてて。そのときに本当に、Aちゃんお父さんが日立で生まれて、自分も水戸って本当近くで、ちょうどだから……自分さっき東久留米って、西東京のとこなんですけど、その隣町で、隣の花小金井って本当バスでいける町でAちゃん育って、みたいな。
――めっちゃ近い、本当に。
そう。で、Aちゃんのお父さんもお母さんも北海道北大出身で、自分の父親も北大の出身だったりとかっていうので。Aちゃん、あの高校も、都立国立(くにたち)って結構東京だといい公立高校で、自分もそこを受けて、自分落ちてAちゃん受かってみたいな感じで。自分そこ行きたかったから、国立行きたいなと思って一橋(大学)受けて、で、それもだめで早稲田。Aちゃんそれも受かってっていう(笑)
――あははは(笑)
そう本当に、自分がトライしたけども掠らなかった道を進んで(笑)。だから自分の「If」を、分岐をちゃんとあの、通った方の道を進んでて。あ、そうなんだってなって、それで出身、水戸市と日立市って本当隣ぐらいで、そっから引っ越してきた時期も同じぐらいとかで。父親も北海道出身で、お姉ちゃんも同じような境遇で……みたいな感じで、もうこんなことってある? ってぐらい共通点があって。本当にそれがきっかけで今日に至るってところで。もう結構出会ったとき……に、Aちゃん自身の卒論送ってもらって(笑)
――はい、一応私は知ってるけどあの……(説明をお願いします)
そう、Aちゃんは社会学部で。その……きょうだい児についての、聞き取りをベースにした研究をしてて。Aちゃんが育った小平市って結構、障害者支援とかが盛んというか充実してて、「あさやけ」ってその障害者支援の団体というか、グループにAちゃんの家族も所属というか、してたんで、そのきょうだいにいろいろインタビューしたりして、その事例をまとめて。あの、結構本当にインタビューを含めたら15万字ぐらい、卒業論文で……かなり(笑)そう。で、それを本当会って2、3週間目で読んでて(笑)。自分がドイツいるときに、ドイツのね、週末に。
――すごい!
そうそう。そのときになんか初めて自分のことが相対化できたというか。要はなんか……俺の、俺だけの不幸みたいな感じで、自分の中でなってたんです、それまでおそらく。でも、別にこういうシチュエーションの人って、いや、いっぱいとは言わないすけど、自分以外にもいて、みんな自分以外もそれなりにやっぱ同じようなことを、やっぱなんか恥ずかしいとか、何となくその、ある時期に家族以外の人に言いづらいとか、そういう経験をするんだってことで、急に、何すごいあの自分、自分ばっかりが悲劇のヒロインというか(笑)、別にこれってなんか特殊……まあ一般から比べたら比較的マイナーではあるけど、別に自分ひとりだけがすごく特別な悩みでもないんだなってことが、すごい結構頭をガツンとそれに殴られた感じがして。
そのぐらいのとき、自分でもだんだん20代後半になって、他にも『自閉症の世界』って本を読んで、本当に遺伝子のランダムな結果としてその……スペクトラムってそのなんか、何か別の人じゃなくて偏りが、定型発達の人と比べて、遺伝子の組み合わせとかその現れ方がちょっと偏ってるっていうので、地続きであるっていう話で。しかもそれってすごくランダム性が強くてってところで、それもあって本当に、なんか自分と姉ちゃんって生まれる順番が逆だったら、自分がお姉ちゃんの立場だったかもしれないしっていう。本当にそのたまたま偶然の、何も、ただの本当確率の問題なんだなってのもすごく思ってたんで、それとAちゃんとの出会いってのがあって、自分自身が、悲劇のヒロインモードからだいぶ脱出するきっかけになったっていうのは、すごく自分にとってのターニングポイントだったなっていうふうに思いますね。
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――すーごい話……。感想が浅すぎるんだけど(笑)
いやいや、なんかこういうふうにすごく……思ってますね。
――でも今聞いて、スピード感が結構すごいというか。まず出会った初日にその話してるのもすごいし、Aが自分の卒論、あれって自分のことも書かなきゃいけないからすごく自分を暴露しなきゃいけないみたいな部分もあると思うんだけど、それをもう出会って1ヶ月の時点で送ったりとか。なんか、そのスピード感。結構私は驚いたんだけど。当時どうだったのか。
ね、そう。そうスピード感で言うと本当に出会って1ヶ月で付き合おうって話になって。
――じゃあ付き合う前に卒論読んだんだ。
そう。そうだったと思う。
――すごい(笑)
それで付き合って、2ヶ月ぐらいで一緒に住んで。だから8月に付き合って10月に一緒に荻窪に住んでたんで。で1年、ちょうど1年で結婚してって感じだったんで。
――だから(Aの友人という立場だった私は)本当不安で(笑)
そうそう(笑)多分周りから見たらすごい早かったっていうのは本当に、自分も今言葉にすると早いな。でも多分2人の中では、やっぱある程度自分の中でもそういういろんな考えとかがあった中での、最後のなんかカチッとはまったピースというか。だからすごくそこの部分があの……そういう自分の中で受け入れなきゃなって、いつかはその兄弟のこととかって、向き合っていかなきゃいけないなって思ったときに、恋愛とかっていう以上に一緒に走っていけるというか。この人が一緒だったらこの課題に対して、向き合っていけるんじゃないかなってことで。そこにすごくその地に足がつけたというか、今までずっとここ(目の前を指して)に見えてるけど見えないようにしてた問題に対して、その……1人だったら、このまま向き合えないかもしれないけど、Aちゃんと一緒だったらなんかしらの……1人で走るよりは助け合えるんじゃないかっていう、すごい同志と出会えたみたいな感覚がすごいあったから。なんか単純に好き嫌いとか、かわいいかっこいいとか、そういう恋愛的なところ以上に人生を一緒にこれからも歩んでいくならみたいな。そっちに関してはもう間違いないなっていうのが多分……見つけたと、見つかったというか、っていうふうに思ったんだろうなって。思いますね。
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――初めて会った日、どっちから最初にその話をしたの?
いや全然そこ覚えてないな(笑)
――飲みすぎた?(笑)
茄子美味しいねみたいな(笑)茄子好きなんだよみたいな。茄子とサバの料理、イタリアンみたいなので。自分も茄子めっちゃ好きですみたいな(笑)。
――糸口そこから!
共通点のきっかけ、茄子から(笑)まさかこんな、茄子の話とか大学とかの話からそこまで広がるとは。だからそっからどうやって「実はお姉ちゃんって……」に繋がったかは、ちょっと覚えてないけど、茄子の共通点ぐらいから。本当にこんなことってある? っていうのは、いまだに思うところではあって。たしかにどっちから切り出したかはちょっと覚えてないっすね。
―― なんか今まで聞いてた感じだと、Aが言ったのかなと私は思って。
たしかにちょうどそういえば、Aちゃんがなんでマッチングアプリ始めたかみたいな感じの話に多分なって。自分は付き合ってた彼女と別れてみたいな話で、Aちゃんも多分、お姉ちゃんの件がひとつきっかけになって(前の彼氏と)別れたみたいな話になったんだと思う。多分その話から、実は自分もそうなんだみたいな話になったんだろうな、うん。
―― さっき聞いてたら、やっぱそこまでに付き合った人には(お姉さんの事情を)言えなかったみたいなこと言ってたんで。じゃあ言ったのはAなのかなって、私は思ったんだけど。
あーそうね。正確には前に付き合ってた彼女にも言ったことはあったけど……そうね。なんかそこの……そうね。なんとなく自分の中で言っても大丈夫そうかなみたいなところはひとつのなんか(付き合うかどうかの基準として)、あったのかなというところで。
――ターニングポイントがそこで、その後はそれまで不安があったり、自分だけの不幸って感じてたところがそうじゃなくなった。
うん、そうね。
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――それで……なんだろう、そっからはもう良い一方?
……そうね、いや、まああの……(笑)なんかすごいサクセスストーリーじゃないけど、間違いなく全体として本当に常に良い方、なんかこんなね、きれいにいくことってあるのって思うけど、すごい良い方だと。もう結婚してちょうど丸……あれ、2019年なんで、丸5年か。出会って6年だけど、本当にあの……良い、良い一方というか。もちろんその家族の問題っていうか、そのお姉ちゃんとどうするかとかっていうのは、なんか解決っていうわけではないんですけど。そこをちゃんと考えるようになったし、もちろんアクション取れてないところもあるけど、「やってこう」っていうふうに思えて。20代前半、中盤ぐらいになんとなくあった、なんかもう上手くいかなくなったらどっか行っちゃえばいいんだみたいな、ちょっと変な自暴自棄みたいなそういう気持ちは本当になくて。何に対してもちゃんと逃げずにというか、何かしらちゃんと考えていけば立ち向かっていけるんだっていうその、覚悟というか地に足ついた感じはすごく……そういう変なふわふわ感みたいのはなくて。
――へえ、そんななんか……やっぱりこう、どっか行っちゃおうぐらいの気持ちがあったんだね。逃げ出したいみたいな。
あーそうそうそうそう。多分なんか自分ってちっちゃい頃からファンタジーとかが好きなのも、やっぱ本読んでる瞬間って「ここじゃないどこか」にすごい没頭できて、結構自分が大学生ぐらいまでのときって姉がパニックになって暴れたりとか、それでうちの父親がすごい……大声出して。まあ普段はおとなしいけどパニックになると、自分はもう黙ってただ隣の部屋でうずくまってるしかなくてみたいなので。とにかく嫌だーっていう気持ちだけで、何かアクションを取れるわけでもなくて。そのときにひとつがバスケットみたいな、もうとにかくエネルギーをもうヘロヘロになるまでっていうのと、あとはそういうファンタジーの長編の何かが好きで、とにかく読んでる間にだんだんこの世界に没頭できる感覚っていうのが、すごい心地良かったのは、やっぱここじゃないどこかみたいのを、結構無意識に求めてるところがあったんだろうなって。だからなんとなく、ここではないどこかを妄想するっていうのは、そうね。そんなネガティブな意味でもなく、あったなと思う。
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――処世術というか。
そうです、多分処世術だったんだと思う。そうやってひとつの、自分の中での逃げ場を作るっていう。
――生き抜くための。
そうそうそう、なんかそうなのかもしれないなって思う。
――なるほど……(服部さん)どうですか?(笑)
――そうっすよね。いやなんか、なんかうまく言えないですけどね。そっか。うん。なんかこう、なんて言うんすかね、若い頃のモヤモヤしたものみたいなのが、出会われてなんていうかすごく解消されたというか、癒されたみたいな部分があったんですかねやっぱり?(※服部の発言)
そうっすね、だからよりその伸び伸びというか、リラックスして、生活出来てきてるようになってるかなっていうのは。元々別にビフォーアフターのビフォーでも、そういう部分は十分にあったと思うんですけど、それがより今は……自己を卑下したりとかしなくなったなってところではありますね。なのでそういう意味で打たれ強くなったというか、ちょっとしたことでくよくよ……くよくよはするんですけど(笑)なんかでもその根っこの部分では大丈夫、大丈夫っていうか……そんな極端に自暴自棄な気持ちになるってことはなくなったなって思います。そういう意味ではすごくホームというか、そういうのが出来たなっていうか。元々Aちゃん自身がすごいその「自己肯定感の泉」って自分で言ってるんすけど(笑)
――湧き出てきてる(笑)
本当に元々Aちゃん自身が大丈夫だよ! っていうか、頑張ってるし十分やってるよっていう。Aちゃん自身もそうだし、自分に対しても。仕事とかに対してもなんかやっぱ湧き出てる人から結構、水を自分が補給させてもらってるんで(笑)
――あははは。
だからそれをゴクゴク飲んでるうちに、心の中の枯れてた部分が生き返ってきて、そんな簡単に息切れしなくなったなっていうふうには。ありますね。
――めちゃくちゃわかりやすい例え(笑)自己肯定感の泉。
そう水を飲んで。そうなんですよね。やっぱすごくそれはありますね。
――Aの卒論は人を救ったんだなと。
そうね。本当に少なくとも自分はすごくそのうん……そうね、本当に救われて。なんか箱の外にちょっと出られたというか、すごい自分の中ですごくこう(視野が狭く)なってたなっていうので、やっぱり一歩引いてみると、なんかね、何か現状が変わるわけではないけど、少なくとも、そういう変な悲劇のヒロインモードからはだいぶ脱せられたなって、すごい救われたなって。そうね、卒論……大事(笑)
――(笑)
そう、いやだからこそ、こういうやっぱ物語にする人っていうのは、結果的にそれを読む人ももしかしたら自分自身を相対化できるというか、それを読んだ人も自分と同じようなことを思ってるとか。っていうことに気付けるきっかけになっていいなと思うんで。この企画もすごい良いなと思いまして。
――ありがとうございます、そんなふうに言ってもらえて。本当にさっきも言ったけど、最初にAにたけしくんを紹介してもらったときに、すごいAに合わせてるのかなって思っちゃった。なんかAが言うことに対して「そうなんだよ、そうなんだよ」みたいな感じだったから、なんか裏があるんじゃないかって(笑)
あはははは(笑)
――なんかここは全部従っておけみたいに思ってるんじゃないかみたいな。思うぐらいやっぱりぴったりだったから、でもそこで共通してるっていうことは当時私は知らなかったし。
そうだよね。そう。
――そうそうそう。あーなるほどなっていう。
そうね。だから本当にすごいラッキーというか、本当になかなかこういうふうなね、経験っていうか、共有できる人って出会えるもんじゃないと思うんで。それは本当すごいラッキーだなっていうふうに、いま思ってます。
――例えばこれから起きうる問題というか、もう本当にどんどん親は年をとっていって、親が今までやってきたことができなくなっていくっていうときに、それ自体は前と変わってないじゃない? だけどやっぱその受け止め方がすごく変わったっていうこと?
そうね。なんかちゃんと出来てない部分もあるけど、やっぱ具体的に向き合っていくっていうのは、要はただ悩んでるだけじゃなくてお金のことをどうするとか住む場所をどうするとか、やっぱ……実際にその生活を進めていく上での問題を考えていくっていう、やっぱそこになるなっていうところで。だからある意味、なんかふわふわとした漠然としたモヤモヤではなくて、ToDoに落とし込めることだし、それをちゃんと面倒くさがらずにやれるかっていう。だからモヤモヤから、重たいけどタスクとして見えるようになってきたっていうところはあるんで。
――たしかに、それ結構でかいというかね。
それすごいでかい。やっぱ仕事の不安も書き出すと解消されるみたいなそういう、よく言うと思うけど。それに近くて、なんかロマンチックで変な悲劇のヒロインとしてすごい不幸だ! みたいな感じのところから、いややることめっちゃあるな(笑)みたいなふうになっていくっていう。ただやるかやらないかとか、どうやったらやれるかみたいな話に落とし込めるようになってきてるから、もちろんわかんない部分もあるけど、その差はものすごく大きいなっていうふうに。うん。
――逆に自分がAに影響したみたいなこともあるのかな。
どうなんだろうね。よく言われるのは……結構、なんだろう。自分のご機嫌をとるのが上手だっていうふうに言われるんで、それはその……なんだろう。参考にされてるかなっていうふうに。
――へえ、例えば?
自分早寝早起きだし、ちゃんと睡眠が一番大事なんで。一人暮らしのときから早く寝る日は21時半とか22時ぐらいに寝て、みたいなところとか。あとめっちゃ風呂に入る(笑)
――あー、聞いたことある。
休みの日はもう朝夜2回とか3回入ったりとか、でリラックスするとか。あと散歩する。なんかモヤモヤすることがあったら散歩するとか。あと嫌なことがあったら、自分の好きなもの、食べたいものを作って、トマトソース煮込むとか、麻婆豆腐とかカレー作るとか。結構自分くよくよするけど、くよくよした自分と向き合うためにこうやると自分のコンディションというか気分が良くなるっていうのをいろいろ持ってるから。やっぱそれを日々重ねてるから、なんか嫌なことあったーって思ったら「今日麻婆豆腐作るわ」みたいな感じだから。
――ああー。
なんかモヤモヤしたなって思ったら散歩するとか、バスケするとかっていうことで結構自分の中で心身ともにコンディションを整えてくみたいなのは、結構意図的に。本読んだりとか、そういう社会人生活の中で積み上げてった部分はすごい褒められるんだけど。Aちゃんも結構寝るの早くなったし、多分。規則正しい生活は与えられてる気がする(笑)一緒に散歩したりとか。
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――じゃあそのターニングポイント前の、自分の世界に入っちゃうみたいなことがある意味良い方向で。
そうね、だから結構ターニングポイント前のなんかくよくよすることに対して、自分なりに、くよくよするけどでも、それをどう良くしてこうみたいな、そういう気持ちは……そうね、変わらずあったんだと思う。
――テクニック的にもう身につけていたっていう。
そうそうそう! っていうところはなんかそうね、一緒に暮らす中での……なにか及ぼしている影響ではあるのかなって。
――めっちゃバランスいい夫婦だよね。すごい仲良い。あんまり見たことないぐらい仲良いと思う。なんというか、お互いがお互いのことすごい好きみたいな。
そうね、それは本当にそう。6年経つけど変わらずで、はい。すごい、よかったな。
――いやー素晴らしい(笑)話がもう元々めちゃくちゃまとまってて、めっちゃ聞きやすかった。
本当に?
――何か話して足りなかったこととか、これ言ってなかったなみたいな、ないですか?
いや大丈夫だと思います。ターニングポイントって聞いたときから。
――もうピンって?
そうね。何か書いたりはしてないけど、この6年間考えてきたことだったので。すごくこういう機会をいただいて改めて話をすることが出来てよかったです。
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話 :鹿熊健
文章:サトーカンナ
写真:服部健太郎