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台湾と名がつくもの 台湾パイン

 近くのスーパーで台湾と名のつくモノが視界に飛び込み、思わず足が止まった。この時期いまか今かと心待ちにしていた台湾パインだ。
 そもそも日本であまり見かけなかった台湾パイン、日本市場に突如として現れたのは、中国政府による一方的な輸入処置により中国本土へ輸出ができなくなったから。
 大口顧客であった中国市場から突然締め出され、行き場を失った大量の台湾パイン。窮する台湾の生産者を救えと日本の流通や消費者が救済を呼びかけ、一昨年頃から日本市場に上陸し今日に至る。
 大災害など事あるごと真っ先に復興支援の手を差し伸べる台湾の人々、日頃からの恩義を感じる日本人も多く、話題性もあって輸入当初から日本市場での評判は上々とのことだ。
 パインの産地わが沖縄にて台湾産は果たして受け入れられるのか、入荷されるや否やその政治的背景も重なり売り切れ続出、沖縄の消費者にも既に年を追うごとに定着した感がある。
 この日一番の目玉商品としてスーパー入口の目立つ棚の一角を占め、大きめのパインが397円とかなりお手頃、多くの買物客の目を引いていた。手に取るとずっしり重くすでに完熟、すぐさま食べられ芯まで甘さもほどよく人気の秘訣に納得する。

この日一番の目玉商品 大玉397円!

 農産物だけでなく、今なお輸出の四割、輸入の二割を中国大陸に依存する台湾。
 選挙の度に独立志向の強い民進党が優位と見れば、すぐさま輸入規制や渡航制限などの圧力をかける。その反面、大陸寄りの政策を掲げる国民党優位であれば、農産物や工業製品の輸入を拡大、さらに大陸観光客に出境を促し台湾の観光業界の盛り上げに貢献させる等など、あからさまな硬軟政策によりなんとかして台湾の人々を変節させようとする。
 総統だった李登輝の訪米に抗議して軍事演習を活発化させた1995年台湾海峡危機の時も、アメリカが空母を派遣し台湾海峡を通過させるなど事態はエスカレートしたが、人々は動揺もせず普段通りに生活し結局直接的な軍事衝突は起こらなかった。
 ここ数年を見ても、総統選での国民党の敗北、米下院議長の訪台、総統の訪米など事ある毎に規制や軍事演習をちらつかせ圧力をかけ続ける。さらに米中関係が冷え込む中その狭間に揺れる台湾、またも演習を活発化させ緊張を煽り人々にとって心落ち着く暇もない。
 
 このパイン騒動も民主化、独立を進める現政権を牽制すべく、大陸市場で好まれる台湾ブランドが常に槍玉に挙がり、今回がパインという見方もある。ただ割を食ってしまった台湾の生産者、傍目から見たら案じてしまう大陸の圧力も、免疫ある台湾の人々にとって意図するほど響いていないようだ。
 台湾は国際社会から一線を画せられ政治的微妙な立場にあっても、時勢に翻弄されながらも、持ち前の絶妙なバランス感覚により数々の危機を乗り越え、人々は常にアンテナを張り巡らせ巧みに利益をたぐり寄せ発展を続ける。
 輸出入規制や圧倒的軍事力を誇示すればするほど、台湾の人々は逞しくなり冷静に判断する能力にたけ多少のことでは動じない。
 力づくでは決して奪うことができない高い技術力やもの作りに対するひたむきな姿勢はたまた卓越した商才は、米中の狭間にあって異質な緊張状態から創出される所産なのかもしれない。
 
 沖縄にて台湾パインが食べられること自体、パイン好きないち消費者にとって嬉しい反面、今なお緊張を強いられる台湾の現状を如実に表しなんとも言い難い複雑な気もしないでもない。
 でも、外圧に決して屈しない台湾人の無骨さやしたたかさが、酸味を程よく抑えほんのり甘い瑞々しいパインから伝わってくるようだ。

旅は続きます・・・