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るみおばあちゃんのランドセル

えみは、小学一年生の女の子です。
この春から、近くの小学校に、通っています。
入学する前に、えみは、おばあちゃんから、
ランドセルを買ってもらいました。
えみの大すきな、ピンク色です。
「ワアー。おばあちゃん、ありがとう」
えみが、とび上がって大よろこびするのを、
おばあちゃんは、ニコニコしながら、ながめて
いました。

えみのおとうさんとおかあさんは、二人とも、
朝から夕方まではたらいていたので、えみは、
家の近くのアパートに住む、おばあちゃんの
ところに、学校がすむと、よくあそびに行っています。

おばあちゃんは、近くのうどん屋さんにたのまれて、ときどきお手伝いをするほかは、アパートのへやで、えみがあそびに来るのを、楽しみに待っていてくれました。
そのうどん屋さんにわけてもらった、おいしいうどんを、えみにもよく食べさせてくれることもあって、えみもおばあちゃんのところに行くのが、とても楽しみでした。

ある日、学校の帰りに、えみがピンク色のランドセルをせおって、おばあちゃんのアパートに行くと、おばあちゃんは、古ぼけた赤いランドセルを、布でいっしょうけんめいに、ふいているところでした。
「おばあちゃん。それ、どうしたの?昔のランドセル?」
えみが、首をかしげてたずねると、おばあちゃんは、なつかしそうに答えました。
「このランドセルはね、おばあちゃんが小学生の時に、使っていたランドセルなの」
「エッ……。おばあちゃんにも、小学生の時が
あったの?」
えみが目をまるくして言うと、おばあちゃんは、ふき出すように、笑いころげました。
そして、えみのまっすぐ前にすわって、目を見ながら、やさしくえみの両手を自分の両手でつつむようにして、すこし長いお話をきかせてくれたのでした。

「もちろんよ。おばあちゃんも、小学生だったのよ。おばあちゃんたちのころは、男の子は黒いランドセル、女の子は赤いのと、決まっていたのよ。あれは、おばあちゃんが今のえみちゃんと、同じ年のころだった。この赤いランドセルを買ってもらったときは、うれしくてたまらなくてね。今は、こんなにくたびれてるけど、
ピカピカ光ってて……。このランドセルをせおって学校にかようのを、とっても楽しみにしていたの。だけど、そのころのおばあちゃんは、
今のえみちゃんより、背も低くて体も小さくってね。まわりの大人たちからは『ランドセルに足がついて、歩いてるようだ』とか言われて。ある日、学校からの帰り道に、同じクラスの男の子たちから、おばあちゃんの名まえが“るみ”
なんていうもんだから『ヤーイ、ヤーイ、ランドセルミヤーイ』って、まわりをとりかこまれて、からかわれて……。もう、くやしくって、悲しくなって、泣きながら家までの道を走って行こうとしたそのとき、うしろから車がきてることに、気がつかなくってね。だれかの『あぶない!』というさけび声を聞いたとたんに、気を失って……。次に目をさましたときには、病院のベットの上だったの」
えみは、思わず、いきをのみこんでいました。
そして、おそるおそる、たずねました。
「おばあちゃん、車にはねられたの?」
「よくおぼえていないんだけど、どうも、そうだったみたい。あのうどん屋さんのおじいさんも、たまたま見ていたらしいの。『ランドセルがクッションみたいに、あんたを守ってくれたんだよ。車がそのまんま体に当たってたら、命があぶなかった』なんて、いまでも、よく言ってるくらいでね。それを思うと、大人になっても、このランドセルが捨てられなくって」

えみは、おばあちゃんのお話を聞きながら、いつのまにか、なみだをながしていました。
(おばあちゃんが、小学生のときに、亡くなっていたら、わたしは?)
などと、いろいろな考えが、あたまのなかをグルグルとうずをまいていたのでした。

るみおばあちゃんは、えみのなみだを、指でやさしく、そっとぬぐいながら、言いました。
「小学生の時のおばあちゃんは、あれ以来、
『わたし、ランドセルミでーす』って、明るく元気に自分から言うようになって、六年間、この赤いランドセルといっしょに、ぶじにすごすことができたの。おばあちゃんのおとうさんもおかあさんも、あたらしいのを買ってくれようとしたけど、けっきょく、カバン屋さんに直してもらったのを大事に使い続けてね。えみちゃんもどうか、おばあちゃんがプレゼントした、
このピンク色のランドセルを、たいせつに使ってね。それと、おねがいだから、あぶない目にあわないように気をつけて」
「うん。おばあちゃん、ありがとう」
えみは、大きくうなずくと、ハッキリ大きな声で言いました。
(終わり)
#土屋鞄の絵本コンテスト



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