韓国ソウル旅行1日目〜タッカンマリの夜
韓国ソウルへ3泊4日の家族旅行に行ってきた。
家族で行く初めての海外旅行。
私と妻、長女、次男、三男の5人で行くことになった。
私自身も海外へ行くのは20年ぶり。
当然、楽しみなのだが、
韓国の政情不安や
言葉の障壁や、
反日感情はいかほどのものか等
様々な不安要素もあり
無意識の防御反応が、肌の上を覆っていた。
出発の前の日に
少しだけ韓国の歴史の勉強をしようと、
映画「ソウルの春」を観た。
1970年代後半から1980年代にかけて
軍事政権の台頭を描いた映画で
とても面白かったが
韓国軍の部隊同士が、上官の権力闘争
に巻き込まれ戦うという
実話を元にしたストーリーで、
行く前に見る映画としては
余計に不安を煽られる内容だった。
ちょうど今、
大統領官邸で、同じ韓国人同士が
上官の命令だけで揉みあっている最中だ。
民間人のデモも行われているという。
「そんなグルメだのコスメだのと
軽い気持ちで行くような情勢なのか」と
一人留守番をする長男が追い撃ちをかける。
そんな期待と不安が入り混じった状態で
函館から羽田を経由して、
韓国、金浦空港へ降り立った。
実は、韓国は私にとって
とても思い出深い国だ。
1996年アジア選手権マラソンで
春川(チュンチョン)とソウルを訪れている。
その時、出したアジア選手権マラソンの
タイムが私の生涯記録となった。
(まだ気持ちでは引退していないが)
私はこのレースの前、憂慮を抱えていた。
レース前日、国際電話で通話した際
公衆電話の上に財布を置き忘れた。
急ぎ戻ったのだが、すでに財布は
置いた場所にはなかった。
すぐにホテルのフロントに
その旨を伝えたが、財布は届いておらず
大会期間中もついに届くことはなかった。
財布の中には、日本円にすると
15万円ほどウォンが入っていた。
溜息ばかりの試合当日だったことは
言うまでもない。
こんなに気勢の上がらないレース前は
後にも先にもなかった。
しかしスタート直前に転機が訪れる。
チームの監督がそばに来て
「大会賞金がでるらしいぞ」と
耳打ちしてくれた。
海外では、当時から主要なマラソン大会で
賞金がでることは珍しくなかった。
優勝で日本円にして50万円、
2位で30万、3位で15万円だったと
記憶している。
なぜこんな細かく覚えているかというと、
これで表彰台にあがれば
失ったお金を取り戻せると
その時、思ったからだ。
もう名誉だの誇りだのではない。
私の目に再び、どす黒くも
巨大な力が宿ってきた。
きつい所も、賞金の力で乗り越えた。
ゴール直前まで4人が争う大激戦だったが、
一番後ろにいた私は
猛烈な守銭奴スパートを放ち
前の二人の選手を抜き2位となった。
ゴールした瞬間、
2位になった喜びよりも
15万を取り戻し、更に15万プラスにした
喜びの方が大きかった。
こうして私の海外初マラソンは
華々しい成績の影に、
欲にまみれた裏事情を潜ませながら
終える事となった。
ちなみに大会が行われた春川は
冬のソナタの舞台となった所で
私の裏事情とは似ても似つかぬ
ロマンチックな場所である。
そんな昔の思い出を噛みしめながら
入国検査に向かう。
入国審査の係員が厳しい目を向ける。
『もうお金の為に生きる事は辞めました』と
反省の色を浮かべながら立っていると
日本語で「いい旅を」と言ってくれた。
韓国へ入る。
緊張感が増す。まずは
地下鉄でソウル市街へと向かう。
ここで妻のタフさを目の当たりにする。
韓国では地下鉄やバスを利用する際
交通系IC、T-moneyカードが便利である。
コンビニなどで購入することができるのだが、
大人料金、青少年料金、子ども料金の
3つの料金区分がある。
コンビニの店員にパスポートを提示すれば
その区分ごとのカードを購入できたのだが、
韓国にきて初めての買い物という事もあり
カードを購入する際、そのことを失念していた。
地下鉄のコンコースまで来て
チャージする時に
妻がそのことに気づいた。
私は、
「もう子供らも(青少年2人、子ども1人)
大人料金でいったらええやん」と言ったが
そんな言葉には耳もかさず、
妻は改札横の駅員さんに、
必死で片言の英語とジェスチャーで
説明をしている。
駅員さんもようやく理解したのか
笑顔で「OK!」と
T-moneyカードとパスポートを受け取って
区分ごとの登録をしてくれた。
韓国に来て初めての会話、
そして韓国に来て
初カムサハムニダを妻に
取られてしまった。
この妻の姿に、いつまでも
不安がっていてはもったいない。
現地の人と交流してこそ
旅は充実したものになると
覚悟の決まった瞬間であった。
金浦空港着が夜だったこともあり
ソウル随一の繁華街、明洞(ミョンドン)にある
ホテルへついたのは9時を過ぎていた。
1日目の夜は眠らない街、東大門(トンデンムン)で
鶏を丸と一羽鍋にいれた水炊き
タッカンマリを食べる計画を立てていた。
東大門の街の狭い路地を入った所に
タッカンマリ横丁という
タッカンマリ専門店が多く
立ち並んでいる場所がある。
どの店からも、美味しそうな匂いが
立ち昇っている。
でも迷わない。
韓国通の友人から
タッカンマリ情報を
教えてもらっていたからだ。
入った店は
『陳玉華ハルメ元祖タッカンマリ』。
席につき、
「どれくらい食べれるやろ。」
「一羽まるごと入っているみたいやから
一つでええんちゃう」
と上着を脱ぎながら妻と話すうちに
ドン!と鍋が2つ。
有無もいわさず
注文もとらず
という感じで置かれる。
驚きつつも、
『こんなにいらない』とも言えず、
「まあ食べれるだけ食べよう」
と席に着いた。
脱いだ上着を膝の上に置いていると
店員さんがいきなり、
一番下の子の手を引っ張り、立たせると
下の子の座っていた椅子の座面をもちあげ、
下の子のジャンバーを押し込んだ。
そして下の子の両脇を抱え
ドンとまた座らせた。
最後に親指を立ていいねポーズ。
日本の優しいサービスに慣れた下の子も
目を丸くして驚いている。
少々荒っぽいが、媚びへつらいもない接客に
海外へ来たんだという事を肌で感じる。
無性に楽しくなってきた。
タッカンマリは、
器に醤油、酢(だと思う)、唐辛子、からしなどの
薬味を入れて食べる。鍋の中のスープにも
味がついている。このスープが鶏の出汁が
染み出していて、とてもうまい。
次男は、韓国旅行の中で
「タッカンマリが断トツ1位やろ」と
帰路で述べている。
結局多すぎると思っていた
二つの鍋も、あっという間に平らげ
更にうどんも追加した。
このうどんも鶏の出汁を吸って
最高にうまい。
しかも5人でお腹いっぱい食べて
60000ウォン(6000円)と安い。
韓国一夜目から大満足の晩餐だった。
移動疲れで、お腹いっぱいになり
もうあとはホテルに帰るだけだと
思っていると、
妻と娘はこれから東大門の
ショッピングモールを見て回るという。
なんというバイタリティ。
女性が韓国へ来ると
いきなりスイッチが入ったように
エネルギッシュな状態になる。
私と下の子たちは
ショッピングには興味ないので
ホテルに帰って就寝。