映画『アオラレ』がヒットした理由は?
映画『アオラレ』をオンライン試写しました。
主演はラッセル・クロウ。ラッセル・クロウといえば、『グラディエーター』でアカデミー主演男優賞を受賞するなど演技派俳優として高く評価されています。その一方で、プライベートでは差別的な発言や暴力沙汰などが報じられることもあります。
『グラディエーター』では筋肉美で観客を魅了しましたが、本作ではかなり増量して、unhinged=正気を失った人物を演じています。ラッセル・クロウのこれまでの作品を振り返ってみると、役に合った体型になっているので、体型づくりは役づくりの一部なのでしょう。お腹周りはメタボ体型ですが、腕や胸には筋肉もついていて、迫力満点の仕上がりとなっています。
ラッセル・クロウ演じるトムは、レイチェルからクラクションを鳴らされたことをきっかけに、煽り運転、ストーキング、そして、暴行、殺人など、常軌を逸した犯罪行為を繰り返します。
ここからは少しネタバレを。
標的となったレイチェルは、シングルマザーの美容師。朝寝坊の常習者で、日曜日は1時間かかるとわかっているのに、「平日だったら10分で着くのに」と悪態をつき、イライラした様子で、クラクションを鳴らします。それがトラブルの発端で、同じくイライラを抱えたトムに対して、口先だけの謝罪をし、好ましくない対応を繰り返します。経済的、精神的に余裕がないと、適切な判断ができなくなるという、反面教師のような役どころなのでしょうか。あまり共感するところのないキャラクターでした。
トムはレイチェルのスマホを手に入れると、アドレスや位置情報を活用して、ネットストーキングを開始。レイチェルの交友関係を暴行や殺人のターゲットにします。レイチェルは、何度も遅刻を繰り返していることを理由にクビを宣告したデボラを殺人のターゲットに指名します。(デボラは優良顧客だったのに!?)トムは、デボラはレイチェルにとって大切な人ではないと判断し、結果的にデボラは命拾いをします。このようにレイチェルは、思慮が足りないところがあります。ただ、トムがやっているスマホのアドレスや位置情報の活用の仕方は、レイチェルの息子でもわかる程度のこと。高度な頭脳戦ではないので、映画としてはおもしろみに欠けますが、ネットストーキングではありふれた手口なので、リアリティは感じました。
身勝手な理屈を振りかざし、常軌を逸した制裁を下すトム、弁護士や弟の婚約者が斬殺されるなど、多数の犠牲者を出したにも関わらず、息子と弟を守ることができたと安堵するレイチェル……どちらも、身勝手なところは似ているのではないでしょうか。レイチェルはトムは紙一重なのかもしれません。
登場人物の誰かに共感するタイプの作品ではないし、細部の詰めも甘いところがあるように感じましたが、カーアクションを見ているとスカッとするので、最後まで見届けることができました。
作品の評価はあまり高くないようですが、アメリカでは週末興行収入ランキング1位となっています。イライラした人物に焦点を当てる試みは、コロナ禍の世相を映し出しているようにも思えました。「ラッセル・クロウがなぜこの役を?」という意外性が功を奏した面もありますが、身近に起こりうる恐怖を描いたことがヒットの理由ではないでしょうか。
監督:デリック・ボルテ 出演:ラッセル・クロウ、カレン・ピストリアス、ガブリエル・ベイトマン
配給:KADOKAWA 2020年/アメリカ映画/90分/PG12
日本語字幕翻訳:松崎弘幸
全米公開:2020年8月21日
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/aorare/
公式Twitter:https://twitter.com/aoraremovie
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