見出し画像

建築家・松村正恒研究と日土小学校の保存再生をめぐる個人的小史[14] 2009年:改修工事の完成

 日土小学校の改修工事は、2009年の6月末に完了した。そして、使用開始は2学期からということで、夏休みのあいだにお披露目の機会が設けられた。
 まずは地元へのご報告ということで、7月18日(土)に、地域の皆さんや子どもたち向けの見学会が開かれた。私は参加できなかったが、その日の様子を撮った写真を頂いていたので掲載する。

中校舎の川側の様子。ウッドデッキは改修工事で付加したもの
子どもたちも見に来てくれた

 そして、8月1日(土)、一般向けの企画として、日本建築学会四国支部愛媛支所と八幡浜市教育委員会の主催による見学会とシンポジウムが開かれた。午前中9時から12時までが日土小学の見学会、午後1時から4時半までが、八幡浜市保内町にある八幡浜市文化会館「ゆめみかん」の2Fサブホールでのシンポジウムだ。

当日のチラシ

 私は、改修工事が終わったことが何しろ嬉しくて、知っている研究者、建築家などへ案内状をいっぱい送った。神戸芸工大の学生にも見に行ってほしいと思い、7月23日に学内で説明会を行った。そして、7月31日の朝、車でゼミ生たちと神戸芸工大を出発し、八幡浜へ向かった。
 8月1日、9時前に日土小学校へ着き、車から降り、久しぶりに見た瞬間の気持ちをそのまま思い出すことはもうできないが、1994年以来見続けてきた姿とは比べものにならないくらい美しく変身していて、戸惑いや照れといった、人間に対するのと同じような感情を抱き、戸惑ったことをよく覚えている。
 気がつくと、私は新しくなった3つの建物の内外を駆け回り、写真を撮りまくっていた。初めて見た1994年と同じ行動である。建築の専門家から地元の方までたくさんの方が来ておられたが、ご挨拶や説明をする暇はなかった。駐車場として開放された運動場も、まだプレファブ校舎が残っていたこともあり、すぐ満杯になっていた。
 この日を初回として、八幡浜市は日土小学校の見学会を、春休み、夏休み、冬休みの年に3回、現在に至るまで実施してくださっており、各回の来訪者数が市のサイトに記録されているが、この日は800名と書かれている。たいへんな数である。
 当日の様子がわかる写真を掲載する。詳しく美しい写真は、『日土小学校の保存と再生』(八幡浜市教育委員会(監)、日土小学校の保存と再生編纂委員会(編)、鹿島出版会、2016年2月)で見ていただきたい。

9時前の到着直後。まだ関係者のみ。変身ぶりに息を呑んだ
プレファブ校舎はまだ残っている
中校舎に受付が設けられた
東校舎の川側。石張りテラスの金属手摺は改修工事で付加したもの
図書室のバルコニー
あっという間に車でいっぱいになった運動場
中校舎に新設した昇降口
職員室。運動場への見通しをよくするため、廊下との境をガラスにした
職員室の前に新設したラウンジ
中校舎の階段。踏み板はオリジナルのもので中央の白線も残した
階段を上がったところ。上部のガラス張りの部分は、右側の部屋から入る倉庫。この部屋だけ、内部を当初の状態のままに保存した
中校舎2階の廊下
中校舎2階の音楽室を普通教室に変えた部屋。天井の形状は元のまま
東校舎1階の昇降口。教室との間に光庭があり、クラスター型の平面構成であることがよくわかる
東校舎1階の昇降口。右側の柱沿いに後付けされていた洗面台は撤去し、トップライトを復元した
東校舎1階の教室。普通教室を特別教室に変えた
東校舎1階の家庭科室。元は普通教室
東校舎1階川側の鉄筋ブレース。2連にすることで耐震性能を向上させた。
東校舎の階段
東校舎の階段。踏み板はオリジナルのもので中央の白線も残した
東校舎の階段。柱の左は鈴木博之先生
東校舎2階の廊下
東校舎2階の教室。普通教室を特別教室に変えた
図書室。ランプはLEDで点灯する。天井のアクリ部分は既存の銀揉み紙を保存した。机と椅子も松村正恒がデザインしたもの
図書室
図書室のバルコニー
中校舎と新西校舎をつなぐ廊下
新西校舎。右のブリッジは体育館とつながっている
新西校舎の南西面。右側が川
新西校舎の階段
新西校舎2階。オープン型の2つの普通教室と多目的コーナーから構成されている。色のついたパネルはスライドし、間仕切りにもなる。
新西校舎2階
新西校舎の洗面所
左奥の廊下で中校舎とつながっている

 午後は、八幡浜市文化会館「ゆめみかん」へ移動し、シンポジウムを開催した。八幡浜市の大城一郎市長のご挨拶のあと、鈴木博之先生からDOCOMOMO Japan 選定記念プレートの贈呈が行われた。そして、鈴木先生による「文化財の継承:石と木 戦前と戦後」と題した基調講演があり、その後、保存再生の関係者(曲田清雄、花田佳明、腰原幹雄、吉村彰、和田耕一、武智和臣)と八幡浜市教育委員会の梶本仁さんによる「文化財として使い続ける」と題したパネルディスカッションを行った。会場は満席であった。
 シンポジウム終了後には簡単なパーティーが開かれた。スピーチの順番が回ってきたとき、これまでのいろいろなことが思い出され、声が震えて慌てたことをよく覚えている。

シンポジウム会場
大城一郎市長の挨拶
鈴木先生とDOCOMOMO Japan 選定記念プレート
DOCOMOMO Japan 選定記念プレートの贈呈
鈴木先鋭の基調講演
シンポジウムのパネリスト

[記事の写真や図の無断転載はお断りします]