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黒い服が着られない仕事

私の大切な友人はとても理知的で上品な人である。
そしてその上におっちょこちょい。

ある時、上役と2人で大事な仕事で出張に行くことになった彼女。
朝、慌てて家を出た。
新幹線で上役の隣に座って自分の足元を見たら、左右の靴が違ったというようなエピソードをたくさん持っている。
理知的で上品でおっちょこちょい、こんな最強なことがあろうか。
とにかく素敵な人である。

以前、実家の母も彼女に会ったことがある。
その時母はこう言った。
「Wさんはほんとう上品な方ね。Wさんのような上品な格好を少しはあなたもしてみたら」。

そのころ私はコムデギャルソンやヨウジヤマモトの沼にハマっていて、全身黒ずくめの上に切りっぱなし、裏返し、左右前後の長さの違うような服ばかり着ていた。(今も着ている。)
母がそう言いたくなる気持ちもわからないでもないが、上品さは服のせいではなく中身の問題なんですよ、お母さん。

そんな彼女は黒の服を着ない。
いつもベージュやグリーン系のきれいな服を素敵に着こなしている。
「Kさん(私のこと)みたいに黒い服を着てみたいのだけど、仕事柄ちょっと無理だものねぇ」。
ある時そう言われて「いいじゃん、着れば」と安直に答えた私に、首を横に振る。

彼女は病院をクライアントにする仕事をしていた。
確かに病院に黒い服、特に黒のスーツなんて着て行くのは患者さんのために遠慮したほうがよい。
仕事で病院に縁のない私は、そうか、そういうものかと初めて得心した。

そんな大切な友人にアトリエコート風のジャケットをつくってみました。
これを書いていて思ったけれど、アトリエコートというよりドクターズコートのようでもありますね。
彼女ももうリタイヤしているし、来年は黒の布地で何か作ってプレゼントすることにしよう。


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