舞夜物語 vol.5
17:30から18:15まで
タケオ君は橋の欄干に立つ
待ち合わせなのか
何か目的があるのか
誰かこの習慣に気づいたり
いつもの人 と認識しているのだろうか
はたまた忠犬ハチ公の人間版か
幾らなんでももう5年と8ヶ月も続いていれば
声を掛けてくる人や色々噂にもなるもんだろう
春や秋の比較的過ごしやすい頃ならいざ知らず
雨の日も酷暑の時分も、極寒の今でなら
只ならぬ決意が有るのだろうかと
気にもなってしまうものだろう
こうやって
伝説って出来ていくものなのだろう
タケオ君 たけおくん takeokun
おやおや
いつの間に名前を知っているのだろうか
そもそも 本名かさえ怪しい
いつの間にやら
都市伝説とやらが
頭の中に入り込んでいたのか
自分自身さえ頼りにならない
夕刻になると
すっかり駅までの間は
この欄干を利用する人々にとって
タケオ君が居る光景が
当たり前の日常になっていたんだろう
見ているような知っている様な
でも 声も素性もどんな表情をするのかさえ
全く知り得ない知り合い
一方の
タケオ君は この夕刻に
この欄干を利用する幾人もの人々のことを
誰よりも把握しているのかも知れない
変化を察知しているのかも知れない
そして
特徴までも見抜いているのかも知れない
ただただ
17:30〜18:15まで5年8ヶ月の間
欠く事なく
この橋の欄干に立っているという事実の中で
どれ程のドラマが内在しているのだろうか
人だけではなく
気候や都市の変化
五感全てにおいて何が起こっているのだろうか
いつの日か タケオ君は
タケトシ氏などと名乗って
この橋の欄干でのことを
明らかにするのだろうか
今日は 牡丹雪がまつ毛を冷たく濡らす
今日も 声を掛けれず前を通り過ぎて
何故か胸が痛い
どうか大事になさってくださいまし
などとココロで呟く
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