舞夜物語 vol.4
銀は
ススキ野原を駆けていました
時折
青鷺と白鷺がピクリと反応し
青鷺は川面を
川上にステップしながら
2軒先ほど飛び立ちました
たったったったッとひたすら
駆け抜けて行きます
銀は 夕陽が落ちる前に
必ずこの野原で独り武術を特訓しています
今は ススキの背が丁度良く
50ほど束ねては
居合の稽古に集中します
秋風がザザザッと脇立ち
鞘からスッと抜き出た刃が
キラリと光り
銀と共に鋭く立ち振る舞います
強風で右に左に大きく揺れる
ススキの穂先を敵陣の動きに見立て
銀は交わしながら
一網打尽の様相です
息を呑み込みながら
向こう岸の柳の下で
一連の奮闘を観ていたのは
篳篥(ひちりき)の練習をしていた
お吟です
今日はお気に入りの赤い腰巻きが
映えています
齢の頃は 銀より5つほど下で
吟は 火付け番の田吾作の機転で
薪割りをこっそり抜け出し
ここで今度の秋祭りの
お神楽奉納の代役の練習をしていました
お吟は、気づけば
あんぐりお口を開けて
銀の居合術に見入っていました
我に返ったような様子かと思えば
お神楽の練習の筈が お吟の篳篥は
今度は一心不乱で
鋭くキレのある音色に変わり
銀の立ち回りに見事に合わせたような
即興演奏を始めました
お吟は自分でも止められない指先に
驚きましたがこの秋風セッションは
続きました
最後に篳篥の長い息遣いと
高い音色がお空高く吸い込まれると
銀の立ち回りもお吟のセッションも
ピタリと同時に止まりました
二人はそれぞれに
互いに気づかず
静寂に包まれた野原を後に
家路に向かいました
そんな日々が半月ばかり続きました
秋祭りの晩
居合術の奉納と
同時にお神楽奉納が
対岸の神社で偶然同時に行われたようです
その夜の素晴らしい奉納は
それぞれの神社で語り継がれたほど
松明は朗々と輝きに満ち
お吟と銀の姿を際立たせたのでした
夜空の神々は きっと
この2人の芸を磨く一途さに
お慶びになられたことでしょう