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【子宮頸がんの記録#12】排尿訓練
広汎子宮全摘術の後遺症
術前から説明は受けていたし、SNSでも大多数の手術を経験した子宮頸がん患者が自己導尿をしているのを見ていたから覚悟はしていたけれど、辛かった。
広汎子宮全摘術は子宮、卵巣、卵管、リンパ節、骨盤内の臓器をほとんど摘出する大掛かりな手術だ。
膀胱の近くにある神経も傷つけたり取ったりするので術後排尿障害が起こる確率が高い。
排尿障害の種類も、尿意を感じない、尿意は感じるがトイレに行っても出ない、最初は出るが出しきれず残尿がある、などさまざまである。
10%ほどは排尿障害にならないらしく、こんな低い確率を引き当てて癌になっているのだから少ない方に入る気もしていて、期待していたがそれは叶わなかった。
排尿訓練
術後4-5日すると尿バルーンが抜けて排尿訓練へうつる。
1日に2Lほど水分を摂取し、尿意を感じなければ定時でトイレへ行き自尿が出るか確認するという流れだ。
トイレにユーリパンという出た尿を計測するトレーを設置し座る。
最初は自尿が50ml出て優秀じゃんと喜んだのも束の間、出なくなった。
尿意はなんとなくあるのに、トイレに行って座ると出ない。
「どうやっておしっこってしてたっけ?」と呆然とした。
仕方ないことだとは頭で理解しつつ、途中から心が荒んでくる。
人間として当たり前にできていたことができないとは、こうも尊厳を踏み躙られるのか。
頑張ってどうにかなる問題ではないのが悔しい。
排尿する時は膀胱壁が収縮して尿を押し出し、尿道括約筋が緩んで尿道を広げるこの2つが重要である。
どちらも自律神経でこちらの思いで操作できるものではないからむずかしい。
排尿障害のための内服薬も追加されたが、残尿は多い。
「水の流れる音を流したら出ました!」とSNSで情報を得てYoutubeで清流の音を流してみるも効果なし。
排尿する時は副交感神経を優位にさせる(リラックスする)必要があるので、体の力を抜いてリラックスして集中して尿が出るイメージを…と頑張っても出ない時は出ない。
途中からは、どうせ出ないからもう便座に座らずに、最初から導尿してくれればいいのにと卑屈にもなった。
「痛くても我慢して歩く」とか「回復のために頑張って食べる」とかならわかる。
頑張ったらできるようになる、というものではないので頑張りようもない。
ただ、出るようになる日を信じて、待つだけ。
絶望感、戸惑い、焦り、悲しみ、諦め、不安。
いろんな感情でぐちゃぐちゃだった。
もう補助もなく歩けてごはんも食べられる。
あとは尿さえ出れば退院できるのに。
トイレに行く時間以外は暇で、もう元気なのに尿だけ出ない。
赤ちゃんでもおしっこが溜まったらオムツに排泄できるのに。
動物でさえできる生理現象が自分にはできないのが悲しかった。
自己導尿の練習
そしてもっと心をすり減らしたのが導尿だった。
いくら同性とはいえ、相手がプロフェッショナルとはいえ、同年代の看護師に毎回導尿されるのも嫌だった。
導尿して残尿が尿瓶に溜まっていく音を聞くと惨めな気持ちになった。
自己導尿の指導をしてもらうときもかなり抵抗があったが、そんなこと言うわけにはいかなかった。
手技を覚えないと退院できないのだから。
心を無にした。