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夜の魔物
世の中にインターネットが浸透し始めたころ、私は大学生であった。
地方から関東に出てきた私は一人暮らしを始めた当初、パソコンを持っていなかった。
奨学金で通っている学生も多い大学であったため、パソコンを持っている人の方が少数であったように思う。
一人暮らしを始める学生向けの生協のパンフレットには、デスクトップパソコンもノートパソコンも載っていたから、大学入学を機にパソコンを持ちたい、と考える人が増えていた頃である。
入学した時点ではパソコンを持っていないことは不利にはならなかった。「情報処理」の授業で使った大学のパソコンのOSがUNIXであったことは、今となっては貴重な経験であったかもしれない。
だが、一年もしないうちに、持っていないと今後は困るかもしれないぞ、という雰囲気が漂ってきた。
父が自営業で使っていたノートパソコンを買い替えるというので、廃棄する古いをほうをもらってきた。今のノートパソコンを三台積み重ねたくらいの厚みがあるWindows95、そしてダイヤルアップ回線を申し込んだ。
電話代を気にしながら、恐る恐るインターネットに接続し、メールやブログを使ってみる。
メールソフトやタイピングソフトも多く発売され、私がブラインドタッチを習得したのもこの頃であった。役に立った、という実感はなかったが、できなかったら就職時の苦労はさらに大きくなっていたことだろう。
当時使っていたメールソフトは、ゲーム要素を含んだもので友人間でも流行っていた。ほぼ毎日、大学で顔を合わせるし、電話からのメールも使えるというのに、一人暮らしに部屋に戻ってからまたメールを送っていた。
メールをやり取りしていた友人の一人に、ブログを毎日のように更新している人がいた。彼女のブログをチェックし、コメントを残したり、あるいはメールを送ったりすることが、私も日課のようになっていた時期があった。
日記のようなブログの文章に私と会ったことや会話が登場すると、気恥ずかしさとともにうれしい気持ちを感じたものである。
その彼女が書いていた文章でとても記憶に残っているものが「夜には魔物がいる」というものだった。
ブログもメールも、夜に書いたものを翌朝読み返してみると、なぜこんなことを書いてしまったのか、と全部なかったことにしたくなるがもう遅い。夜には魔物がいる。
彼女はお酒が飲めない人だったから、全て素面で書いている。その彼女ですらそう感じるなら、アルコールを含んだ頭で考えた文章など、魔物に食い荒らされてとても表に出せるものではない。
「夜の魔物」という言葉自体は、時折見かける、つまりは心当たりのある方も少なくないのではなかろうか。
それでも、ごくまれに夜の闇を見つめながら、かなり気に入った文章を紡ぎだせることもある。自己満足ではあるが。
夜の魔物はあくまで魔物。気をつけなくてはならない相手だが、気まぐれに使われる魔法が魅力的に思えることも確かにある。
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