覚悟を決める 田坂広志氏
こんにちは。
人にはそれぞれの生き方があり、出来事も、出会う人も、出会うものも、思想も、時間の流れも、どれをとっても同じものはありません。私は四人兄妹で、食べるものや、見ていたテレビ番組が酷似していたとは言え、思想や人生観や、生き方は違います。枝葉に瓜二つのものがないように、それは当たり前のことであります。
兄は芸術の道へ行き、実家の農家を継いでいます。僕は運動の道へ行き、今はコンピュータを触っている。二つ上の姉と、三つ下の妹もそれぞれ違う道にいます。運命の悪戯とはよく言ったもので、これは運命なのかも知れません。では何故、運命があるのだろうか?
輪廻転生という考えがあります。考えというと、その宗派の方から怒られそうですが、宗教談義の場所ではありませんので、ここでは敢えて考えとします。前世の行いによって、今生きているこの世界が決まる。又、大いなる功徳を積めば、来世素晴らしい世界へと生まれ変わることができる。
上述の輪廻転生を軸にすると、この世で私が熊本県の農家に生まれて、祖父母と父母の元で穏やかな幼少期を迎えて、現在大阪の地で生きていることは全て、前世の功徳の恩恵と表現することができる。
運命・・・
人間は時として、「運命」という言葉を使うことがあります。男女が出会い互いに「運命」を感じてお付き合いするが、汎用的なシーン「運命」のシーン。「運命」とはどちらかというとポジティブなムードが含まれた言葉に聞こえるのは私だけでしょうか。
しかし、考えてみますと人生に置いてはポジティブなことだけが起きるわけではありません。ご存じの通り、例えば志望大学に合格できなかったり、例えば仕事で左遷されたり、例えば愛する人と別れることになったり、例えば株で大損を喰らう等々、色々な一般的にいうとネガティブなことも起きてしまいます。生まれて死ぬまで、良いことしかなかった人生など存在し得ないのではないでしょうか。
これらのネガティブな事象、これが前世の悪業の消化と言えば聞こえがいいのですが、そう中々割り切れないのが人間であります。そもそも輪廻転生を意識しない人にとっては、善業や悪業の想念すらありません。
では、これらのネガティブな事象が起きた時に、どうやって処するのが正しいのか・・・
これは人生に置いての大いなる題材の一つなのではないでしょうか?
前置きがかなり長くなりました。
昨年、とある本に出会い、それからとある動画に出会いました。
とある本とは田坂広志氏の「死は存在しない」という著書。中国人YouTuberが中国語で紹介していた本。私は同僚から、書籍の存在を教わりました。
とある動画は、田坂広志氏の講演動画、「すべては導かれている-逆境を越え、人生を拓く五つの覚悟 -」。
本をぼんやりと読み、そして半年くらいたったころに、偶然にも講演動画に出会いました。田坂広志氏のハスキーなボイスに引き込まれます。勿論、ハスキーボイスだけが魅力的なものではなく、田坂広志氏の苦難を乗り越えてこられた人生観と言葉の重みに感銘を受けました。
田坂広志氏は西暦1983年の夏、医者から「長くは生きられないだろう」と余命宣告を受けます。私自身、死についてそれとなく考えているとは言え、直面したことも、誰かに死期が近いことを言われいたこともありません。言わば、私の考えは机上の空論。しかし、田坂広志氏は医者から余命を宣告されたのです。その時、田坂広志氏は
「どうしてこんな病気になってしまったのか」
「これからこの病気はどうなっていくのか」
と不安に苛まれる日々を送られた。
そのような絶望的な場面で、両親の勧めで禅寺に向かわれる。
以下、著書から抜粋します。
最初は「そんな怪しげな場所・・・」などと拒絶していた私でしたが、病の症状が悪化してくるにつれて、その辛さと心細さから、ついに、藁にもすがる思いで「行ってみようか・・・」という心境になりました。
しかし、その禅寺に行ってみると、内心、期待していたような特殊な治療法など、全くありませんでした。
その寺で与えられたのは、ただ、献労の日々。毎日、鋤や鍬を持って畑を耕す労働の日々でした。
少し飛んで、禅師との対座の場面です。
それは、私が期待したような、何か不思議な力を持って、私を励ましてくれる言葉でもなければ、私の心を癒してくれる言葉でもありませんでした。その禅師が語った言葉は、ただ一言。
「そうか、もう命は長くないか・・・」
救いを求めるように頷く、私。
禅師は、その言葉に続いて、腹の据わった声で、こう言いました。
「だがな、一つだけ言っておく。人間、死ぬまで、命はあるんだよ!」
著書からの抜粋はここまでです。
この場面は、動画でも拝聴できます。是非、ご自分の耳と心でお聞きなさることをお勧めします。
それから、堰を切ったように田坂広志氏の本をいくつか読み進めました。同じ内容が書かれている箇所がありますが、それはそれほどに重要な箇所であるように思います。
田坂広志氏の出会いは稀有であり、私の人生に覚悟の決め方を与えてくださったような気がします。いや、現に毎日懸命に働き、学業に勤しみ、本を読み、これから必要になってくる物事を具足していますから、覚悟を決める原材料になったことに嘘偽りはありません。
田坂広志氏は東京大学の工学部出身ですが、本の文中に難しい数式等は出てくることはありません。一読されることをお勧めします。
花子出版 倉岡 剛