「リスポーンできない!」
人が死ななくなって久しい。
がん治療研究の一環で見つかった遺伝子により、人はクマムシよりも強い耐久度を誇れるようになった。まさに超人だ。
死ねなくなった影響で、食料生産が追い付かなくなってしまった。
金持ちだけが死ねなくなったわけではなく、ウイルスのように人々に広がってしまったことが要因だ。
もちろん空腹でも死ねるわけではなく、冬眠状態に近い状態になるだけ。むしろ老人たちは山の中に自ら進んで生き仏になろうとする人たちすらいた。動物に食べられる心配もなく、日々、季節の移り変わりを見ていたらしい。
そう言った事情で、見晴らしのいい物件はすぐに買い手がいて、突貫工事でビル群が一斉に立ち並んだ。景観がいいはずのマンションは、すぐに日照権も危うくなった。
居住区も足りなくなったのだ。
初めのうちは、横に広がっていた住居も、すぐに上に伸ばすしかなくなった。
ドローン技術が発達していたおかげもあって、物も人も輸送可能。教育も仕事も、すでにリモートに移行していた。
もちろん人体の耐久値とは別に災害は起こる。
地震だ。
突貫工事で建てたビル群は、軒並み潰れコンクリートの塊となって、海へと押し寄せていった。もちろん、中には人がいる。
耐久値は高いので圧死することはないし、空気がなくても千年くらいは余裕で乾燥した状態で眠っている。乾眠というらしい。
つまり埋まったままの状態で、他の場所へ生まれ変わることができないということ。
『リスポーンできないなんて、現実はクソゲー』
などという標語が1000年前に流行ったこともあるとか。
「さて、そんなことよりも、皆さんには、人を発掘してもらいたいと思います。間違った人を発掘しないように」
前時代の技術者を発掘する仕事に就いた俺は、リーダーの言葉を聞いた。特に鉄拳制裁が飛んでくることもないし、お金があろうがなかろうが特に問題はない。
暇つぶしの一環だ。
「間違った人ってどういう人ですか?」
「役に立たない人たちですね。もし不用意に乾眠している人を見つけたら、ちょうど近くの山が噴火しましたから運んで行ってください。面倒ですが燃やすにはそれしか方法はありませんから」
耐久値が上がったところで、力が上がったわけではないので、コンクリートを退ける作業は結構骨が折れる。実際に骨が折れてしまうと、世界的な科学の賞を貰えるわけだが。
日本は地震は多いが水が美味しく、こういうボランティアをするとたいてい水と軽食を貰える。前時代を思い出すようで楽しい。
昼休憩の時に、うっかり地面に水をこぼしてしまった。
ゴクリ。
喉を鳴らすような音が聞こえた。
ボコボコボコ……。
地中に乾燥した人が埋まっていたようで、水を吸い込み、600年前の人が出てきてしまった。服と炭素計測で腕につけたデバイスに表示される。
「リスポーンできた?」
600年前といえば、埋まった人を生き返らせようという機運が高まっていた時だ。
今とは別の価値観で生きていたのだろう。
「いや、あなたはここに埋まっていただけです」
「なんだ、そうか……」
寂しそうな顔で、頬についた泥を拭っていた。
「どうします? 一応、近くの火山で死ねますけど……」
「来世にかけるか。それもまたいいな。今は出生率はどうなってる? 政府が規制しているだろう?」
「ええ、今は年に10人と決められています。あなたが死んでくれると、一枠空きますけどね」
「どうしようかな。まぁ、ちょっとこの時代を楽しんでから決めるよ」
そう言って、泥だらけの服のまま、ビル群の瓦礫が高く積まれた山へ登っていった。
リスポーンを求めて、また埋まりに行くのだろうか。
「喉、乾いたな」
西の方では、先日の大雨で、200年前の人たちが復活したらしい。政府の発表によると、そのまま塩漬けにするつもりのようだ。膨らまないといい。