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とあるおじいさんの話

9月の土曜日。

バイト先にとあるおじいさんがやってきた。私に向かって何か言っているけれど、全然聞き取れない。声が小さいのではない。ただ聞き取れないのだ。書くものが欲しいジェスチャーをしたから、紙とペンを渡した。探していた商品がわかり、ご案内し、一件落着。と思ったのだけれど。

まだなにかあるらしい。何か言っているけれど、聞き取れない。また紙とペンを渡すけれど、名前がわからないらしい。名前を忘れたって言っているのは聞き取れたのだが、肝心のところは聞き取れない。何か書いているけれど、それが何かもわからない。
他の従業員(パートさん)に来てもらったけれど、それでもわからない。わからんならいいや、という感じで、帰ってしまった。謝るしかなかった。

この出来事がずっと心に引っ掛かっていた。私の中で軽くトラウマになった。反省と恐怖。どうすればよかったのか。お客さんが悪いわけでもないから、自分の中で誰かのせいにして処理することもできなかった。

1週間後。
再びおじいさんがやって来た。また私の元にやって来た。先週と同じことを言ってる…と思ったのも束の間、なんと今回は聞き取ることができたのだ。ずっと商品を探していると思っていたけれど、人(特定の従業員)を探していたらしい。商品名を忘れたのかと思っていたけれど、従業員の名前を忘れたということだったらしい。

自分の中ですっきりした。それとともに、商品を探していると思い込んでいたことを反省した。思い込みはよくない。申し訳なかった。

今回の出来事は私の中でとても印象に残った。怖かったのだ。“わからない”が1番不安になるし、怖いのだ。

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