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診断がつかなくても治療は開始できるという話

 体の調子が悪くて病院に行くと、診察や検査をして診断をつけてくれます。診断がつけば治療ガイドラインなど、治療体系に基づいて治療を進めていくことになります。ところが明らかな原因がわからないと、診断がつかないことになります。

 診断がつかないと治療をスタートできないと考える医師が多いので、明らかな異常がないのに症状を訴えていると、気のせいだとか年のせいだと言われることになりがちです。医師は、理由がわからない患者さんの訴えを不定愁訴と呼び治療対象と考えなかったり、心療内科や精神科に紹介しようとしたりします。

 例えば全身倦怠感を訴える患者さんがおられるとします。体に鉄分が足りない貧血があれば、鉄剤の投与を開始できます。甲状腺機能低下症があれば甲状腺ホルモンの補充療法を開始します。がんが見つかればそのがんの状態に応じた治療を開始します。ところが何も異常が見つからなければ、治療は開始できずに、せいぜい休息をとりましょうと言うくらいしかできなくなってしまうのです。

 ところが、診療に漢方も取り入れている医師の場合は、診断がつかなくても治療を開始することができます。もちろん、漢方の目で見て、どこに原因があるか考えた上で処方するお薬を決めるわけですから漢方的診断はついていると言えます。

 漢方的診断というのは、証を決定するということです。人の状態を漢方的に把握するということもできます。患者さんの訴える症状、体格、皮膚の状態、脈の様子、お腹の診察などを総合して、どの処方が良いかを判断することを、証を決定するというのです。証が決まった時点で、お出しする漢方薬も決まってくるのです。

 検査で異常がないけれど倦怠感を訴える人に対して、元気が足りないと判断すれば、元気をつけてあげるような処方、少しうつうつとしているならば気を晴らしてあげる処方、血の巡りが悪ければそれを改善する方剤、むくみがあるなら水のバランスを整えてくれる漢方薬を処方する、と言った具合に治療を開始できるのです。

 病院に行って、異常がないと言われても症状が続く時、あなたならどうしますか?異常がないなら仕方がないと、その症状に付き合っていきますか。いやいや症状があるのだからどこかに異常があるはずだと考え、診断がつくまで病院を渡り歩きますか。それも良いのかもしれませんが、どこかで一度は漢方診療も受けることをおすすめします。すると一旦様子を見る余裕が出てきますし、漢方薬ですっかり体調が良くなることもあると思います。

 西洋医学のみで判断する医師が気のせいだといえば、病気ではないとか私には治療できないと言っていることになります。一方西洋医学とともに漢方の目でも見る医師ならば、気のせいならば、その気の状態をよくしようと考えます。視点が変われば、打開策も見つかることがあるわけですね。

 ちなみに漢方では「気」というのを大切にします。気とは何か私にもよくわかりませんが、生命エネルギーであり、生命活動のコントローラーであるとイメージするのが良いと思っています。単細胞生物が死んだ瞬間、そこには必要な物質が全て揃っているはずですが、人はその細胞を生きかえらすことはできません。その物質の集まりに生命を吹き込むものを仮に「気」と呼んでいるのかもしれません。

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