痰の多い咳がでるかたの漢方薬
咳がでる原因はいろいろあり、痰の状態もそれぞれ違います。今回は、咳とともにすこし粘っこい痰がたくさん出るようなときの漢方薬を紹介します。
咳に対して、通常使うお薬は、鎮咳薬と去痰薬になります。咳を鎮める薬も脳の中枢に働くものの、気管支での刺激を感じにくくするものがあります。注意しないといけないのは、咳というのは体が何かを気道からそとに出したい時に起こる反射だということです。出すべきものがあるのに、無理やり咳を止めようとしてはいけないのです。
漢方の発想は、咳を無理に止めるというものではなく、全身状態をととのえ、結果として咳が鎮まっていくのをめざすというものです。さらに生薬の効果で、喉や気管支粘膜の湿潤や乾燥に対応し、心身一如の考えから、こころの状態も考慮して、適切な漢方薬を選び出すのです。もちろん西洋薬と漢方薬は相反するものではないので、うまく併用することはお勧めです。
清肺湯(せいはいとう)
さて粘り気のある痰が咳とともにたくさん出るという方は、慢性気管支炎やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)と診断されるかたが主になります。いつも咳をしたり、咳ばらいをして、カー、ペッ、と痰をだしたり、ティッシュでいつも痰を取ったりしなければなりません。そのような方に用いる漢方薬の代表は清肺湯(せいはいとう)になります。保険適応病名は、痰の多く出る咳、とそのまんまです。体の水気が少ないために、からだや肺に熱を持っている状態をイメージします。清肺湯は、肺を潤し、熱を冷まし、咳や痰を鎮め、胃腸の調子をととのえ、血のめぐりを良くするといった生薬の連合軍です。のぼせ、イライラ、喉の渇きなども軽減してくれます。
滋陰至宝湯(じいんしほうとう)
咳は呼吸にかかわる筋肉を収縮させるので、咳が続くとエネルギーを消費していきます。そしてだんだん体力が落ちていきます。そうなってくると滋陰至宝湯(じいんしほうとう)という処方の出番となります。保険適応病名は、虚弱なものの慢性の咳・痰、となっています。体を潤しつつ咳や痰をしずめ、肝の状態をととのえ、血のめぐりを良くし、胃腸の調子も整えます。体が弱ってでる微熱や寝汗を抑え、ほてりやのぼせを軽減します。非結核性抗酸菌症と診断されて治療を継続している方などにも向いた処方です。
竹筎温胆湯(ちくじょうんたんとう)
風邪や肺炎の後に、咳や痰がなかなかおさまらずに、夜もあまり眠れないというようなときにもちいるのが、竹筎温胆湯(ちくじょうんたんとう)です。適応病名は「インフルエンザ、風邪、肺炎などの回復期に熱が長びいたり、また平熱になっても、気分がさっぱりせず、せきや痰が多くて安眠ができないもの。」となっています。イライラ、疲労感、食欲不振、のどの渇きなども改善してくれます。
今回は淡が粘っこい咳がでるときの処方を紹介しました。水っぽいさらさらした痰が出るような場合はまた別の処方を考えますし、痰が出ないような咳も別に考えます。咳、と一言で言っても、漢方処方はいろいろな状況に応じた処方が作り上げられてきたことが良くわかりますね。