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生薬の多くは植物から

 庭で遊ぶ猫を見ていると、草を食べることがよくあります。お腹を満たすためと言うよりも、体の調子を整えるために種類を選んで食べているように見えます。そういえば野生動物でも、植物などを薬として摂取していると思われる例は多く報告されているようです。そう考えてみると人間も例外ではなく、記録のない大昔から植物を体調管理に利用してきたと考えるのが自然でしょう。3000ないし4000年前にはすでに、薬として植物を利用していたと言う記録が古代文明の起こった地域では確認されているといいます。

 日本漢方の源流とされている書物は、傷寒雑病論とされています。この書物は3世紀の初めごろに成立したと言われています。この書物にはすでに生薬をいくつも混ぜた組み合わせた漢方処方というのが記述されています。と言う事は生薬自体を利用した歴史と言うのはそれよりもずっと前からあると考えるのが自然だと思います。人類は多くの試行錯誤の中から、効果があり、できれば安全であると言うような形で植物を利用させていただいてきたといえます。

 植物は自発的にはその場から動けない生き物ですから、それなりの生存戦略が必要となります。そのために外敵に対する毒を作ったり、生き物を引き寄せるための香りや色を作り出したりするわけです。私たちは植物たちが作り出したその化学物質をうまく利用させてもらうことで体調を整える物質として体に取り入れるということを行ってきました。

 では西洋薬と言われるものはどうなのでしょうか。西洋薬の場合、単一の化学物質で構成されている場合がほとんどですが、その化学物質は生物由来あるいは自然物由来と言うことがほとんどです。ジギタリスという植物から抽出されて薬になったジギトキシンは、心臓の収縮力を増してあげるお薬であり、 麻黄から日本人がはじめて単離したエフェドリンは、心臓の収縮力を増し、血管を収縮させ、気管支を広げる作用をもつお薬となり、柳の樹皮から見つかったサリチル酸は、解熱鎮痛剤の薬アスピリンとなり、インフルエンザの薬として最初に認可されたタミフルはトウキシミという植物、良く聞く名前とすれば八角の果実に含まれるシキミ酸から最初は作られていました。このように、西洋薬も基本骨格は自然物からヒントを得たものと言えます。ただし、近年では、コンピューターで解析して、自然界にない物質を化学的に作り出すという創薬方法も出てきました。

 以上、一般的に西洋薬は、自然界から単一成分として取り出したものや、それを少し変化させたものを利用しているのに対して、漢方薬は植物の根や樹皮などを加工したもの全体を生薬として使用し、その生薬を複数組み合わせて作られたものです。つまり漢方薬の中には数千種類とも言われる化学物質が含まれているということになります。西洋薬はピンポイントに効果を発揮し、漢方薬は多成分の相互作用で副作用を抑えたり、他方向に効果を表したりします。西洋と東洋では、薬の在り方自体も異なっている点が面白いですね。

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