処方を決めるあかし
漢方薬にはいろいろな名前がついています。知らない人から見るとわけのわからない名前だと思いますが、処方それぞれの名前に込められた想いがあったりします。そんな漢方薬の中から処方するものを選ぶときに、なんだか適当に選んでるような感じがするかもしれません。まぁ確かに適当に選んでいるわけですが、適当と言うのはその人に合った、適したものを選ぶと言うことです。
病院に行くと、診察を受け、必要なら検査をして診断を決定し、その診断に基づいて治療を開始すると言う流れになります。漢方診療も同じで、診察をした上で治療に向かうわけですが、特殊な検査と言うのは行いません。診察によって患者さんの状態を把握して、その状態に適用できる処方を決定するわけです。ですから状態を把握する過程、いわゆる診断がそのまま治療に直結していることになります。
治療に直結した診断を決めることを漢方では証を決定するといいます。証と言うのは証明の証、証拠の証と言う字を書きます。ですから処方を決定する証(あかし)と言うことになります。
証を決定する際には、現時点で表している症状や精神状態、身体の様子などを、気血水、陰陽、虚実、寒熱、表裏、五臓、六病位などの漢方特有の概念を通して判断認識して総合的に考えていきます。そして証が例えば葛根湯の証というふうに判断されれば葛根湯を処方すると言うことになります。ただし、判断基準のどこに重きを置くかによって、処方にもいくつかの選択肢が出てきます。ですから、患者さんのこの部分をメインにして治療を開始しようという具合にして最終的にこれでいこうと決めるわけです。
この判断がなかなか難しいもので、決めた証が最初からバッチリ当たると言うのはなかなか難しいです。服用しているうちに見られる変化なども観察検討して、そのまま最初の処方を続けるか、他の処方に変更するか、あるいは他の処方を追加して処方するかと言うようなことを考え続けるわけです。
世の中のすべてのものは常に変化しています。人の心や体も同様で実に流動的なものです。体の中では様々な変化が起きています。体の構成要素も日々入れ替わっていっていますし心の状態も一定ではありません。という事は同じ人でも日によって証も変化することがあると言うことです。あるときにはAと言う漢方薬があっていた人も、別のときにはBと言う漢方薬に変更する必要が出てきたり、あるいは一時的に必要な漢方薬が出てきたりと言うような具合に体に合う漢方薬は変化する可能性があります。
あなたにとってそういう変化まで見守ってくれるような漢方医と出会えることを祈っています。漢方医といっても医師免許を持っているのですから西洋医学をベースとした医師です。漢方薬だけでなく他の薬も当然処方してくれますし、体の調子で気になることがあったら必要な専門医を紹介してくれるはずです。機会があれば身近な漢方専門医を探してみてください。
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