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乾いた咳が止まらないときの麦門冬湯(ばくもんどうとう)

 冬になると空気が乾燥しますから、のどや気道も乾燥しやすくなります。マスクをしていればその乾燥も防ぎやすくなるかもしれません。喉の乾燥感が強くて咳がでるけれど、痰はあまり出ないというようなとき、いわゆる鎮咳剤を使うとかえって喉の乾燥が強くなり、なかなか咳が止まらない、ということになることがあります。そんな時に使うのが麦門冬湯です。

 麦門冬湯は、麦門冬(ばくもんどう)、半夏(はんげ)、粳米(こうべい)、大棗(たいそう)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)の六つの生薬から構成されており、名前の通り麦門冬がメインパフォーマーです。麦門冬はユリ科の植物で、その根(膨大部)を生薬として使います。麦門冬には滋潤作用といって、気道、皮膚、粘膜などを潤す作用があります。また咳反射を抑える物質を含んでいることもわかっています。それで痰を切れやすくしたり、肌の張りをよくしたりする効果があるとされます。

 麦門冬と半夏が咳止めとして働き、麦門冬、粳米、人参はからだに潤いを与え、人参、大棗、甘草は元気をつけます。体の潤いを補いながら咳を鎮め、体を元気にしてくれる処方と言えます。

麦門冬湯の保険適応は、「 痰の切れにくい咳、気管支炎、気管支喘息」となっています。

 咳をしすぎて顔が真っ赤になり、しまいにはオエッと吐きそうになったりするような激しい咳嗽に使います。かぜの後いつまでも発作性の咳が止まらないというようなときにも有効で、いわゆる鎮咳薬よりも早く効くという報告もあります。

 呼吸をするときの空気の通り道は、粘膜でおおわれています。その粘膜は分泌物で湿った状態が保たれているのですが、乾燥や咳のし過ぎなどで乾燥してしまうと、粘膜が傷つきやすくなります。傷つくと、少しの刺激で咳が出始め、止まらなくなってしまいます。高齢者は、体の水分量が減り乾燥傾向を持っているので、余計に乾燥に弱くなっています。粘膜に潤いを与えつつ咳を鎮める麦門冬湯がぴったりとなります。

 実際例を挙げてみます。風邪の後咳が止まらずに、内科で咳止めをもらって一か月たつけどまだ止まらずに夜も眠れないという方に、この麦門冬湯を処方したことがあります。その時は、抗炎症の目的で小柴胡湯も一緒に処方しました。すると飲み始めた晩から眠れるようになり、一週間もしないで咳が出なくなりました。ただし、竹筎温胆湯という処方でもよかったのかもしれないなぁと思っています。

 咳に対して処方する時には、咳の出方や、他の症状、それに体質などを加味して処方を選択しますから、使うのは麦門冬湯だけではありません。咳が出れば咳止め、といった考え方で処方を決めるわけではないところが、漢方の妙味と言えます。

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