八味地黄丸のおはなし 加齢に寄り添う

 「年は取りたくないわね。」と大きくため息をつく方は外来でもおられます。そろそろ私自身もため息をつきたい時があるので、その気持ちはよくわかります。こんなはずでは・・・ということに気付くとがっくりですよね。

 コーヒーメーカーに水を入れた後スイッチオンすると、少しして溜まってくるのは透明な液体。???。あっ、コーヒーを入れてなかった。先日私が経験したことです。こんなことは初めてですが、まあ一度洗浄したということにして、自分を慰めました。また、階段を駆け下りるなんてとんでもないし、ラジオ体操も少し過激な部類の運動という認識になってきました。やれやれ。

 加齢というのは、少し長生きすればすべての人に訪れるもの。体力の下り坂の傾斜を少しでも緩やかにしようと思えば、養生が一番です。過食、飲みすぎ、疲れすぎ、頑張りすぎなどなど、いろいろなことを過ぎないように注意して日々を暮らすことですね。

 そして漢方薬でアンチエイジングと言えば八味地黄丸(ハチミジオウガン)ということになります。これは主に腰から下の衰えに良いとされているものです。別名腎気丸。腎の気を補うという名前も持っているのです。

 昔の人は、親からもらった生命エネルギーは、腎に蓄えられていると考えました。そしてそのエネルギー、「気」が年齢とともに目目減りしていき、腎の気が虚ろになってくるのを加齢と考え、腎虚と呼びました。腎気丸は情けなくなってきた人の気を補充して、目減りの勢いを緩やかにしてくれるわけです。

 加齢、腎虚の症状とすれば、疲れやすい、白髪や脱毛がふえる、難聴、老眼、皮膚が乾燥傾向、足腰がだるく弱ってきた、夜間トイレに再々いく、足が冷えたりほてったり、足がしびれるなどがあります。高齢の方なら思い当たる症状がいくつかあるのではないでしょうか。

 保険適応として挙げられているものは、「疲労、倦怠感著しく、尿利減少または頻数、口渇し、手足に交互に冷感と熱感のあるものの次の諸症:腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧。」となっています。

 構成生薬は、地黄、山茱萸・山薬・沢瀉・茯苓、牡丹皮、桂皮、附子です。地黄、山薬、山茱萸(サンシュユ)は腎を元気づけ、体に潤いを与えてくれます。沢瀉、茯苓は水のバランスを整え、牡丹皮は血のめぐりを良くしてくれます。附子が体を温めてくれます。しばらく飲んでいるとジワリと聞いてくることが多いようです。ただ、生薬の地黄が胃に堪えるという方が時におられます。そのような時は一緒に人参湯を飲んでいただいたり、他の処方を検討したりいたします。

 腎虚の症状に思い当たるところがある方は、一度医師や薬剤師に相談してみてはいかがでしょうか。年齢とともに様々な機能が落ちてくるのは皆同じ。その流れに抗うわけでなく、そっと寄り添ってくれる処方だと思います。男女の別なく使えますし、若い方でも必要性を感じる方がおられます。40過ぎれば皆対象者、と言う漢方の先生もおられたりします。

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