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お腹を温めることで腸の具合を良くする漢方薬、大建中湯について

西洋医学による診療を行いながら、漢方薬も利用するということが一人の医師でできるというのは、日本独特のものです。その利点を最大限に利用したいと思いながら日々診療を行っています。実際に漢方薬を利用することによって、それまでずっと苦労していた症状がすっと良くなるということを経験すると、捨てがたい診療体系だと実感します。

今回は大建中湯(だいけんちゅうとう)という漢方薬のことをお話しします。これは日本でかなり処方される漢方薬の一つです。それも消化器外科医が、漢方薬というより普通の薬として処方する場合が多いところがおもしろいですね。

お腹の手術を行った後には、大なり小なり癒着というものが起こります。手術操作によりお腹の中に炎症が起きるため、体はそこを治そうとして線維のもととなる細胞などを集めます。そこで、内臓や腹壁との間がくっついてしまうのです。くっつくこと自体は問題ではないのですが、その癒着が原因で腹痛が起きたり、腸閉塞になったりするのです。そんな時はすぐに絶飲食として様子をみたり、鼻やお尻から管を入れて、詰まったところの内容を外に出したりします。それで治らないときや腸が破れそうと判断したときには手術が必要となります。

これら癒着が原因で腸の流れが悪くなるような状態に対して、大建中湯がとても有効なのです。これに代わる西洋薬は在りません。ですから、消化器外科医は、癒着障害ありと考えれば、すぐに大建中湯を処方するのです。

これは実に近代的な使い方です。大建中湯が出現したころには当然手術なんていう治療方法はないわけですから、癒着障害も起こりませんからね。この大建中湯、もともとはお腹が冷え、嘔吐してものを食べることができず、お腹を見ると腸がもこもこ動いているのが見え、痛みを訴える、というような人に使うとされた処方です。その状態が腸の癒着障害の時の症状とほとんど似ているため、使ってみると有効だったということです。腸の動きをととのえ、腸粘膜の浮腫も取ってくれると言われます。

大建中湯に含まれる、山椒と乾姜は、お腹を温め、腸の血行を良くし、その動きをコントロールし、痛みを取ってくれます。保険適応は、「腸が冷えて痛み、腹部膨満感があるもの。」となっています。このような症状があればいろいろ応用ができます。例えば便秘を訴える方が、お腹が冷えてお腹がはるようなら使ってみると良いことがあります。逆に下痢の方にも使っても、温めてあげることで良くなることがあります。

以前、胃癌、大腸がんの術後の方で、ひどい下痢に対して、強い下痢止めを処方されている方がおられました。その薬をやめると、すぐに下痢になるために使用はやめられないのですが、便が出にくくなったり、トイレが間に合わなかったりと、便通コントロールに難儀しておられました。その方に大建中湯をお出しすると、すっかり便通の問題が片付いてしまいました。

長年困っている症状が、いつも漢方薬ですっと解消するわけではありません。西洋医学で難儀な症状は漢方でもむつかしいことが多いです。それでも、漢方薬によって症状が改善するものならば、試してみて損はない、というか医師ならば試してみるのが筋だろうと思います。皆さんはどう思われますか。

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