ため息を 言葉にしてみよう 〜 緑の妖精〜

『Moulin Rouge ! The Musical』の感想を。

パンフレットのCASTページには総勢41名のお名前が掲載され、うちダブルキャストは10役です。演者さんの組み合わせによって印象が変わるため、甲乙つけ難く……って、いったい何回観に行けばいいんですか💢

あっ、こんな時だからこそ、か、とも思います。
幕が上がったら、showman は何があってもショーを続けなくてはならない。
The show must go on . 
おちゃらけたジドラーのセリフが心に沁みます。数年前の私なら、このフレーズにこんなにも執心し想いを馳せたりしなかったでしょう。また映画を観てる。

「50年続くショーになる オーディエンスは拍手喝采!」 
そう公爵にプレゼンしたショーが象の部屋で生まれ、クリスチャンが2人の物語を書き、映画公開から20年以上が過ぎました。ミュージカルという舞台でサティーンとクリスチャンに再会できてとても嬉しいです。

舞台作品は映画と比べると時間や空間の制限がありますし、生身の人間が演じるリアルに好き嫌いが出ちゃったりするんですが、私はこの舞台版も好き。サティーンの自己犠牲割増はちょっと苦手な展開でしたが。本物の女優になりたかったサティーンをどこかへ自由に飛び立たせてあげたかった、そんな諦めきれない思いもずっと抱えておりましたので、カーテンコールがめちゃくちゃ嬉しくて。 

ただ、「サティーンの物語」として歌い語り継いでいくなら、彼女の人生から目を背けてはダメだ。 SYMPATHY FOR THE DUKE で、彼女の生業について考えてしまいました。象の部屋は楽屋で仕事場、命を削り手に入れた場所です。終焉の場として舞台を選びます。「らしい」って言えるほど彼女のことを知らないけど、showman の本望とも言える彼女らしい最後。
……ねぇ、ホントはどうしたかったの?心の声を聞きたくてたまらない。

映画、舞台ともに、公爵は横柄で踏んづけてやりたい(それだけいい味が出てたってことです)。人を殺めたり傷つけたりすることは決して許されることではありませんが、現代の価値観で縛れば、そこにある各々が信じる真実と美しさと自由、そして 愛 が見えなくなってしまいます。なるべく感情をフラットに、と心がけていますが、やっぱり無理ですよねー。

これから30年かけてしっかりと味わいたいので、ぜひとも映像作品として残していただけませんか。井上さん&甲斐さんのやわらかな歌声を耳元に感じ、望海さん&平原さんのキラースマイルにときめき、そして時折涙する。ほら、心身ともに健やかに長生きできそうじゃないですか。


映画版『ムーラン・ルージュ』になかった2曲について、MVも気に入ってしまったので一緒に。パンフに訳詞は載っておらず、あのシーン良かったなーとしみじみ思い返せば返すほど、英語歌詞と強く結びつき記憶していくことになりそうです。
妄想は羽ばたいちゃってるし、好き過ぎて拗らせており、映画の話が出てきてしまうのも大目に見ていただきたい。
すべては 少々とち狂った 愛 ゆえのこと。

舞台ではどんなふうに登場するのか、とても楽しみにしていたモノがあります。それが「アブサン」。映画の復習、舞台の予習も兼ねてこちらの本を読みました。

内容紹介の一部を抜粋すると 
「……酒にまつわる巨匠たちの「失敗談」が数多く物語られている……」でした。名だたる芸術家が並ぶ中に、舞台にも登場するトゥールーズ=ロートレックもいます。多くの人を魅了し破滅させた理由はなんだったんでしょう。
アブサンを飲んだことはありませんが、映画を観た時からずーっと気になっていて。こちらは継続案件として一旦保留に。突然思い立って調べまくる日が来るまで。いや、次にクリスチャンとサティーンに会う日までになんとか。

CHANDELIER
さて、アブサンと緑の妖精が登場するシーン、曲はこちら。

One, two, three, one, two, three, drink ……
Throw’em back ,till I lose count.

このシーンのために作ったの?ってくらいハマってた(曲先です)。

ジドラーが手にしたボトルからグラスに次々と注がれ、クリスチャンが何杯もあおったお酒がアブサン。色合いは繁華街のネオンサインのようだけど、暗闇に見つけた蛍、あの幻想的な発光現象を見ているような感覚に。蛍光色だ、たしかに!ふわりと浮き上がり瞬く間に消えてしまう光は、2階席からは運命の人を求めて彷徨っているようにも見えました。

クリスチャンよ、そんなに飲んで大丈夫なの?アルコール度数はモノによっては89%を超えたりするんだって。緑の妖精を追いかけてるつもりだろうけど、取り憑かれてる。……あー、これ、『アブサンの文化史』表紙にもあるアルベール・メニャン作の《緑の女神》みたいじゃない?当時の絵画にアブサンとともに描かれる人物のうつろな表情や漂う憔悴感は、アルコール成分が引き起こしたものでもないんじゃないかと思ったり。

次は EL TANGO DE ROXANNE 
おぉぉ!いつの間にロングコートを羽織ったの?嫉妬に狂い猜疑心を吠えるクリスチャンはそうでなきゃ。うんうん、その苦悶の表情でサティーンと公爵がいるタワーを見上げるんだよね。映画への愛とリスペクトを感じました。
おっと大事なこと忘れてた。乾坤一擲の「Come what may♪」をサティーンに興醒めだと拒絶されショボーンとするクリスチャンの可愛いことといったらもう!

そして CRAZY ROLLING
曲はこちら。こんなにパワフルな曲もスゴいが、これを歌う二人も凄かった。

劇中は75曲もの、どれも聴き覚えのある楽曲ばかりで、終始、舞台の皆さんと一緒に踊ったり歌ったり騒いだりしたい衝動に駆られます。
この曲はMVのグラスの波紋みたいに振動をおなかに感じ、じぃっと座っているのにもついにガマンできなくなって、こっそり踵やつま先を上げ下げしてリズムを取っちゃった(この、小心者め)。共鳴してる。だから涙がこぼれてしまった。
 
恨みつらみが炸裂しネガティブワード満載の歌詞なのに 愛 を歌っている。サティーンとクリスチャンの嘆きで聴いた後だから、そう読んでしまうのか。
……(You're gonna wish you never had met me)
ねぇ、ホントに出会わなきゃよかった?
映画では「愛してないって言え、料金を払わせろ」ってサティーンを追いかけて、初日舞台にクリスチャンも登場しちゃうんだよね。

清濁混在する感情の中に生まれた、原始的な、まだ名前を持たない萌芽をどう育むかで個々の 愛 のカタチは決まるんでしょうね。20年経って、ようやくそんな境地に辿り着きました。

都合でマチネ公演しか行けず残念です。1回くらいは夜風にあたって余韻にひたるなんて経験もしたかった。もちろんアブサンを飲むんだ。
ついに今月末は千穐楽、手元にはチケットがあと2枚。1列違うだけの同じ席番号は、ぼやっとしてないで、そこから見える光景をしっかり脳裏に刻みなさいよってことですね。仰せのとおりに。
そう遠くはないいつか、またお目にかかれる日を心待ちにしております。