【ショートショート】兄者と君と水のアーチ
洗車する兄者を
遠巻きに眺める君
君が送るまなざしを
兄者はほとと受け取った
決して外そうとしなかった能面
凍土させた心
綻びの糸目すら掴めなかった兄者の顔が
気持ち良く歪んでいく
花が咲いていく
向けるターゲットを君にシフト
優しいアーチが君と兄者を結ぶ
声を立てながら逃げる君
優しいまなざしのままにアーチが追う
――ああ、夏が来た
長く厳しい冬だった
永遠に続くとしか思えなかった
開けない夜はないって本当
気休めなんかじゃなかった
空っぽだった兄者の肺が空気で満たされてゆく
薫風の囁きが兄者にかけた魔法は
きっといついつまでも消えない
さあ
そろそろもったいないお化けに登場してもらおうか
昨晩のシチューがまだ少し残っている
グラタンにでもしてみようか
冬の終わりに相応しいだろう?
おや?
何よりも嫌いで苦手だった料理を
楽しい用事と思っている僕がいる
魔法をかけられたのは僕のほう?
了
おはようございます。
5月5日、子どもの日ですね。
みなさま、いかがお目覚めですか?
今朝、久々に夢を見ました。とっても良い夢。
真っ青な車を、長男が洗車しているんです。
黄砂にまみれてポンコツにしか見えなかった車が見る間に輝きを取り戻していきました。
水を止めようとした長男が、ふと遠くからじっと眺めている弟の存在に気づいて。蛇口に伸ばしかけていた右手の動きを止め、下に向けていたホースの口を再び上に向けました。そうしてホースの先をグニンと潰し、優しい水のアーチを弟の目の前へと運んでいったのです。
目の前に突然落ちてきた水の柱に悲鳴を上げ逃げる弟。でも、水が届かなくなるような遠くには決して行かなくて。まさに右往左往。右に、左に、前に、後ろに。水のアーチが置いかけてくることを、頭上や背中にそれを浴びることをキャッキャと声を立てて喜んでいました。
おはよう。
お帰り。
ありがとう。
行ってらっしゃい。
どんな言葉をかけてもカクンと頷くだけで、声で反応を返してくれることのなかった長男。そんな彼が優しい眼差しのままに弟と水遊びに興じていることが嬉しくてたまらなかったのですが、ふとね。
目の前に見えていない世界がそこに広がっていくのがしっかりと感じられて。
空っぽだった長男の肺が澄んだ空気で満たされていくのが、目に見えるように感じられたのです。
「そういえば昨日作ったシチューが少しだけ残っていたっけ。あれでグラタンでも作ってみようかな」
家事の中で、お料理が一番苦手で大嫌いだった私なのですがとっても珍しく「母として食のお世話をやらなくてはいけない」という義務感からではなく「作りたいから作る」という意思でもって動こうとしていました。
……というところでハッと目が覚めて。
とってもリアルっぽい夢でした。
――この夢をショートショート的物語で描いてみたい。
衝動に突き動かされるままに文字に落とし込んでみました。
ショートショートと呼べない。
断片の切り貼りで物語になどなっていない。
……でしょうか(苦笑)?
ここに物語を見て楽しんでくださった方がいらしたとしたら幸いです。
それでは、また。
どうぞ穏やかな今日を皆さまが過ごされますように。