なんで私の読者は私の文章を読みに来るのか
私は以前、日系レストランのマーケティングに携わっていました。まあ、マーケティングといっても、極端な人で不足で何から何までいろんな仕事を任されたうちの一つがマーケティングだったわけですが。
レストランやバーとか、ホテルとか、そういう客商売は、どれだけ常連のファンがついているかどうかで経営が左右されます。当然ながら、多くの常連さん(固定客)を持っているお店の方が、商売はやりやすいし、新規顧客獲得のための販促にもコストをかけなくてすむわけです。
じゃあ、どうやったら、その固定客を増やすことができるのか。もちろん、狙っているターゲット客層によっても若干異なります。でも、やはり他店にはない付加価値を提供することが、もっとも優等生的な回答になるのかな、と思っています。
レストランですから、料理をちゃんと調理して出すとか、美味しいものを提供するというのは当たり前。そんなことはどこの店も承知している。
じゃあ、それ以上の何かって、いったい何なのか、という話です。
人は生きるために食べます。食べ物から栄養を吸収して、明日の活力にするためです。食べること、つまり栄養補給なしに元気に生きていくことはできません。
しかし、ごはんを毎日三食食べていれば必ずしも幸せとは限らない。
食べることは生きるために必要なことですが、それにプラスして楽しさや幸福感があれば、もっとハッピーになれるわけです。
私の経験上、固定客がまた戻ってきてくれるのは、人と人とのつながりであったり、「楽しさ」だと思うのです。
どんなに美味しくても、たとえそつのないサービスを提供しても、「楽しさ」がなければ「またあの店に行こう」とはならないものです。(もちろん、「他に行くところがない」という理由もあり得ますが、それでもっているだけの店は競合ができたらあっとういう間につぶれてしまうでしょう)
これは、多分書き手と読者の関係にも等しいのかな、と感じるようになりました。
文章が分かりやすい、役立つ情報が提供されている、それだけじゃダメなのです。その程度のライターはいくらでもいる。
どうして、その人の文章に戻ってくるのか。そこには、単に「栄養」としての文章や情報だけでなく、それ以外の付加価値があるからなのではないかと。
ウェブライターとして初級者だったころ、ミニ電子書籍を書くお仕事がありました。自分の体験談をベースにライティングする案件だったんですが、冒頭部分に、他サイトから集めたデータや情報をもとに「まえがき」というかイントロダクションみたいな文章を執筆したんですね。
そうしたら、依頼主からその部分は全部カットするように言われました。
「この冒頭は、誰にでも書ける内容ですよね。そうじゃなくて、あなたにしか書けない文章を書いてほしいのです」
その辺の情報を集めて切り貼りして、適当な記事に仕上げるのが得意だった私には、ちょっと目からウロコのお仕事でした。今から考えても、そのときの執筆経験はとても勉強になったと思っています。
つまり、そういうことだと思うのです。
自分にしか書けない文章を書く。「個性」といってしまうと少し安っぽい気もしますが、それがリピーターをひきつける魅力になるのですね、きっと。
単に情報を吸収するだけではなく、読者に文章を楽しく味わってもらえたら、それこそ作家冥利につきるというものではないでしょうか。
あの人の書く文章はなんだか楽しい、感動がある、だからまた読みたくなる。そんな物書きになりたいと思います。