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仕事、見つかりました!そして辞めました!!後編

今回は2日目の話から。

実は1日目の夜、スタッフの名前を確認しようと思ってダウンロードしたアプリを眺めていて驚いた。その日の私の欄が「欠勤」になっていたのだ。

どゆこと!?なんなら残業してるで!?

びっくりして色々見てみると、他のページに「仕事開始」とあり、そのアプリが勤怠打刻表の役割もしていることに気付いた。

すご。
これ、たまたま気付かなかったらずっと欠勤だったってこと?

こういうやり方なのか・・・と思った夜だった。


2日目は、クリニックに着いた途端にスタッフがバタバタしているのを感じた。アプリの「出勤スタート」を押す。

手術室が準備されているのを見ていると、経営者の奥さんが、

「今日はインプラントオペがある日なの。あなたの前の職場でもインプラントオペはあったのよね。ぜひ見学してね」

と教えてくれた。

やったー!オペが見学できるのか!と思っていると、昨日と同じ診療室へ呼ばれ、見たことの無い女性がいた。彼女はドクターの1人らしく、(この小さいクリニックに何人ドクターがいるんだ?)と思った。

彼女はJほどではないが、私に色々と教えてくれた。

「ドクターが患者と会話をしているときは、会話内容をカルテに記入するの。初診の場合はファイルを作ってね。今回は私が代わりにするね」

え、カルテ記入するんですか・・・!?

確か、アメリカの歯科助手がカルテ記入をするというのはネットで見た。ここでもやるんだ・・・!
日本では自分の仕事内容のみをカルテ記入していた。
そもそも患者の言ったことの内何を切り取るかは、今後の治療方針を決める第一歩だ。これを主治医以外が記録して良いものなんだなあ。

そして、押し寄せるとてつもない不安。

昨日の感じから考えて、ドクターと患者の会話が私に拾えるとはとても思えない。聞こえなければ話にならない。

更に(奇跡的に)聞こえたことのうち、何を抜き出すかを決め、英語でタイプしないといけない。知らない単語だったらまずそこで試合終了だが、知っている単語でもスペルが分からなかったり文法に迷うともうそこでさようならである。

そして最後に、

「ここでは英語ができないということが通用しない!」

という点だ。
もしくは、それがスタッフ間に共有されていないことだ。

英語ができないからって優遇されたいのか、と頭の片隅で思う。

それって甘えじゃない?

でも、また違う自分が言うのだ。

私だったら、言語が流暢で無い外国人を雇う場合、その人に2日目から慣れていない言語での文章記録を作らせるだろうか?もっと仕事を段階的に覚えてもらう方が良いんじゃ無いか?

私を雇っている人は私じゃ無いし、ここは日本でもない。

でも、雇う側が私を判断するように、私は雇う側を判断しなければならないと思う。彼らが彼らの物差しを使うのであれば、私は私の物差しを使うしかない。

郷に入っては郷に従えと言うが、従うかどうかは、やっぱり自分の物差しで測るしかないのだ。そこで従えないと決断を下した場合は、郷(環境)自体を変えようとするんじゃなくて、自分自身を変えたり移動するしかないのだと思う。

その結果、私はちょっとヤバいぞと思った。

”私は英語が苦手な新人である” という共通認識が無いということは、今後もこういったことが起こり続けるというわけで、それは私自身がうっかり何かしらのリスクを負う可能性があるということだ。

言語が分からないということは、それだけで大きいリスクなのだ。

また、カルテ記入が出来ないとなれば、私が担当するドクターに追加でアシスタントが付かなければならないということになる。カルテ記入要員で。
それはシフト管理上非常に手間だし、絶対無理だろう。

そんなことを考えていると、昨日のアジア人の女性が私の診療室にやってきてアシストをしだした。仮にMとしますね。

Mは器材の説明などはしてくれず(それは別に良い)ただ黙々と仕事をしていく。私が手順をのぞき込んでいると、彼女はちょっと呆れたように、

「どうしてここに来ようと思ったの?日本では何をしていたの?」

と言った。日本では歯科衛生士をしていたというと、「ふーん」という答えだった。別に返事は期待していない感じだった。

お昼も過ぎ、ドクターとMが会話しているのが聞こえた。

「M、昼食は持ってきてる?」

「持ってきてるけど、食べなくても大丈夫ですよ」

「持ってきてるなら、あなたの良い時に食べてね。今日はランチの時間が取れそうじゃないから」

その時は歯の型取りをしてかぶせ物を院内の機械で作っている最中だった。かぶせ物は機械で作るが、それを扱うのはアシスタントの仕事ということでMを追いかけて仕事を覚えなければならない。

ただ、どこまでもヒヨコのように付いていくとウザいと思われそうで、Mが他のことをしている時はつかず離れずで私もできることをしていた。

少し目を離すとMが居なくなっていて、もしかしてと思って機械の方へ行くと既にMが作業をしていた。
しまった、最初の方を見逃したなと思っていると、「これ、したことある?」と尋ねてくる。「ないです」と言うと、「ふーん」という相変わらずローテンションな感じで返事をされた。

せっかく追いついたかと思うと、Mはまた機械のスイッチを押し、10分のタイマーを作動させてどこかへ行ってしまった。
10分後に私も戻ってこようと思い、チラチラ時計を気にしながら仕事をする。10分ほどたったところで機械が終了しているのを確認するがMはおらず、その後そわそわしていると20分後にMがやってきて仕上げの段階を確認することができた。

その後Mは診療室に戻ると、ドクターに報告した。

「ありがとう、M。ランチはすませた?」

「ええ、食べました。ありがとう」

え!?!?!?いつの間に!?!?!?

たぶん、Mは空き時間にササッとランチを済ませてしまったのだろう。私はどこがどう空き時間だったのかよく分からなかった。

Mと同じタイミングでお昼済ませたかったな。

その後はまた治療を再開し、片付けをしていると片付けの順番が違うと指摘された。順番を気にすると手つきに戸惑いがあり、自分でも効率の悪い動きになっていると感じる。

「とにかく早くしないといけないの!急いで!!」

私がバタバタしているのを見ながらMはそう言い、次の患者の準備をしようとした私の手から器材を取上げて腹立たしそうにテーブルに並べていた。

メモを取りながらしばらく経つと、Mが私を診療室の外に呼び出した。
何か言われるのかな~と思っていると、

「今日、私はこれで退勤なの。ここからはJが来るから、彼女と居てね。それから、今日が忙しかったということは理解してる。でももっとスピードが必要。日本のことは知らないけど、片付けに時間が掛かるようじゃいけない。今日は私に質問をする時間が無かったと思うけど、明日は答える時間があるから考えてきてね」

と言われた。ニコニコして声高にまくし立て、最後に私に向かって親指を立てた。

「Good Job! Don't panic!!」

じゃあね、と去って行く彼女の後ろ姿を眺めながら、褒めてくれたし優しい人なのか?今まで忙しくて無愛想だっただけ?何を質問すればいいか分からないけど、最初はそういうもんだってことを知らないんだろうな。てか、質問って絶対しなきゃいけない?宿題ってこと?

私をパニックにしてるの、あなたなんですけど笑

その後はJがやってきて一安心、と思ったら、

「#*+%取ってきて!!」

と治療中に急に言われてビックリした。もちろんそういうこともあるんだけど、口腔内が見える位置に近づけないので何をしているのか分からず、とにかく器材置き場へ走り、想像で器材を持って行った。

「違う、それじゃないわ」

と言われ、ではこれかといくつか違うのを持って行くと、

「それでもない。私が後で行くから、良いわ」

と言われた。

これは・・・聞き取れていないことが原因なのか。

それとも治療の流れへの私の理解が間違っているのか。

はたまた、全く知らない器材を言われているのか。

わっかんね~~~。

もうこれが最後だと思ってレントゲン撮影の道具を持って行くと、「そうそう!それ!」と言われ、その瞬間に突然涙が出てきた。

これが聞き取れなかったのだとしたら、この器材は私が知っているカタカナの名前ではないということになる。「へえ~これは違う呼び方をするんだ~」なんて感心する気分には到底なれなかった。

もうどうにも出来ないと思った。

こうなると、全部を丸ごと覚えなおす気でいくしかないということだ。

今までの知識が、ほとんど使えないということだ。

割と即戦力になれるだろうと考えていた自分が、甘かった。

正直、ワーホリは早めに切り上げるつもりだった。メルボルンを楽しむというよりは、日本の花粉症の時期を避けたいという理由で。それまで適当に残って、帰って仕事を見つけようと思っていた。

適当に残ると言ったって、仕事の日以外は相変わらずほとんど予定も無い。友達も帰国する人たちや場所を移動する人がいて、変動的だし。

このままの予定だと、週に3日この仕事をして、あとは暇で、3日分のご飯の作り置きをして、それで仕事を覚えてきたら、もう帰国って感じ?

これ、意味ある?

私がやりたかったワーホリってこれ?

私、なんでオーストラリアで歯科に来たいって思ったんだっけ。

6年歯科衛生士で働いて、キャリアチェンジで区切りを付けようと思った。海外の歯科を見てみたいな~なんて、そんな軽い気持ちだったじゃん。

続ける気も無いここでの仕事で、こんな思いをする必要があるのかな?

「もう帰って良いよ」

と言われたあと、ロッカールームには他のスタッフ分のワイングラスとチョコレートやカップケーキが広げられていた。

オペの後だから、お疲れ様ってことだろうな。

オペ、結局なんの見学もできなかったな。

アプリの退勤を押すと、勤務時間は10時間をゆうに超えていた。ほとんど飲めなかった水筒の水を飲んで、また50分かけて家に帰る。

家に帰って、お昼に食べられなかったサンドイッチを1人で食べながら、ちょっと泣いた。これは誰かに話さないとしんどいと思って母に連絡すると、母は、

「もういいじゃん。海外で歯科を見るって夢、達成したじゃん。帰っておいでよ」

と言ってくれた。

「泣きながらご飯を食べれる人は大丈夫って、すずめちゃんも言ってたじゃん!」

そう言われて、ちょっと笑えた。
面白かったな、カルテット。また観たいな。

「明日、決めるわ」

と言ってその日は寝た。


3日めは、”今日で辞めよう” という気持ち半分で挑んだ。
トラムでメモを見返しながら、出来ることをやろう!と思えた。

その日も忙しくて、なぜかオージーのドクターのアシストに付くことになった。元からそういう予定なのか、この瞬間だけなのか、私は見学すればいいのかアシストすれば良いのか全然分からない。

ドクターごとに診療のやり方が違うので、2日分のメモは当てにならなかった。そしてオージーイングリッシュも全く聞き取れなかった。

患者に使った器材は全てパソコンに登録をしなければいけないが、そんな時間はなく診療→片付け→診療の波が続く。とにかく後からの登録に困らないようにだけしようと思い、もう食らいつくようにアシストをする。

たぶん凄い怖い顔だったと思う。

片付けが遅いとまた言われて、でも適当にもしたくないし、患者の前でガンガン片付けし出すことにも躊躇が無くなった。

ちなみにドクター自身はとても良い人で、私の余裕のなさも分かってくれていたんだと思う。帰り際、「とても上手にアシストしてくれたよ。ありがとう」と言って貰えて、絶対お世辞だけどとても嬉しかった。

その後は面接をしてくれた院長のアシストに付くことになり、しょっぱなで「片付けが遅すぎる」とお叱りを頂いた。一度他の人が片付けしてるの見てみたいんだけど。私、何か余計な動作をしていますか?と疑ってしまう。

そして、患者の話が聞き取れない中診察を予測していると、

「患者とドクターが話をしている時は、立ってるだけじゃ駄目。ちゃんとカルテに記録して」

と言われ、でた~~カルテの記録!

はい、と神妙に頷くものの、聞こえない英会話から必要な情報を抜き出し、スペルと文法に気をつけながらカルテにオンタイムでカルテに記入をしていくということは確実に無理だと考えていた。

その患者が終わり、私は(私なりの)台風の勢いで片付けをしていると、院長がカルテ記入について話し始めた。はいはいと相づちを打ちながら片付けをしていると、パソコンでカルテ記入画面を見せていた(つもり)らしく、最後の方だけちらっと見て、

(全然わからんな)

と思っていると、

「片付けが遅い」

と言われた。

私の手を止めたのは誰なんだ。片付け中に話しかけるな。

片付けが終わって次の患者の準備をしていると、次のアポイントまで時間があったのか、(気付かなかった)

「何をしている?器材の洗い物をして!」

と言われた。その日は本当に忙しくて(それが通常運転かもしれないが)、他のスタッフも洗い場をする余裕が無いのだろうな、とは思っていた。

でもそんな言い方をされて、洗い場の仕事を説明されていない私はぶち切れた。

もう泣く気にもならない!

そっちが教えない仕事をさせる気なら、全然良いです!私のやり方でやらせてもらうわ!!!

私は怒りにまかせて前職のやり方で洗い物をして、その後に来た院長夫人から、

「どうしてこの器材を洗っているの?これは洗わないのよ」

と言われた。知らねーーーーー。

そして昨日のMからも、

「どうしてこの機械を使うときに蓋を閉めないの?」

と言われた。

日本では閉めなかったからだよ!!!!

ちなみに、私が前日に絞り出した彼女への質問をする機会はついに与えられなかった。きっとそんなことを言ったことすら覚えていなかったんだと思う。

彼女の態度を見ていると、自分の余裕があるときや機嫌の良いときにのみ他人に対して優しくなれるタイプのように感じた。
そういう人は前職にもいたが、私はこのタイプがめちゃくちゃ苦手だ。いちいちその人の機嫌を伺わないといけないし、その日に仲良くなれた気がしても次の日には急に牙を剥いてきたりするから。

「休憩を取る前にこれをやって貰える?」

と言い渡された片付け作業をして、オージードクターの時の器材の登録を済まし、休憩室に向かっていると院長から、

「次の患者の準備をして」

と言われた。
はい、昼休み無し確定。

ついでに患者を呼べと言われ、待合室で患者を呼ぶ。
ちなみに、名前の発音はあやふやだ。
でも、それを確認してる途中でまた「遅い」とかなんとか言われるのは本当に嫌だった。

「ジョセフ!」

ヨセフかも。そもそも、ミスターとか付けた方が良い?そして、たぶん名字も呼んだ方が良い。それはそうだが、最早名字は推測することも不可能なスペルだったから、無理。

「Me!」

人の良さそうなおじさんが立ち上がってくれた(待合室にその人しかいなかった)。

その人を案内し、準備をしていく。

「医師が来るまでお待ちください」

と言い、院長を待った。

待った。

けど、来ない。

でも、呼びに行きたくないしな~。

廊下を見ると、Mと他のドクターがあたりをキョロキョロしていた。
なんでも、予約の患者がどこかに行ってしまったらしい。

えっ、それって私が案内した人でしょ、絶対!

名前を聞くと、ピーターとのこと。いや、ジョセフと全く被ってない。

でも・・・念のため確認するか?

ジョセフと呼んでおきながら、「あなたはピーターですか?」と確認する?なにそれ?全然カスッてないのに?

どうしようと迷っていると受付の人がやってきて、患者を一瞥した後、

「彼がピーターよ」

と私に言った。

おいおいおい。

発音か?私のジョセフは、ピーターに聞こえたのか?「Me!」と答えてしまうほど、それはピーターだったのか?

私が患者とドクターに謝ると、2人は笑って許してくれた。

ちなみに、院長はすでに自分の患者と別室で話し合いをしてました。

なんじゃそれ。

なんだか体の力が抜けてしまって、こりゃ駄目だ~と確信した。

1日の片付けが終わった後、院長はその日の私の仕事をため息まじりに解説した。日本ではどうか知らないけど、と何度も付け加えていた。ごもっともである。

私はふんふんとそれを聞いて、質問ある?と聞かれてありませんと答えた。

それからユニホームを着替えて、口を付けられなかった水筒の水をがぶ飲みし、院長に、

「私の英語はこの職場に釣り合っていないことが分かりました。非常に居心地が悪く、仕事を続けることは出来ません。3日間ありがとうございました」

と伝えた。

彼は全く食い下がらなかった。

私にとって働きにくかったように、彼らにとって私は思った以上に仕事の出来ない新人だったに違いない。

ただ、これが嫌な思い出だけかというと、実はそうでもない。

たった3日だが、海外の歯科の内情を垣間見れた気がする。

”意外と日本と変わらないな~”というのが感想だ。

医院の雰囲気も、気分屋のスタッフがいるところも、患者が緊張して震えるところも、ドクターによって診療の仕方がまるで違うところも。

基本的には、ほとんど日本と変わらなかった。

自分の英語が通用しないということも分かった。

これに関しては、もっと勉強しておけばよかったとかそういうことは一切思わなかった。悔しい~!!ともならなかった。

今まで、出来るだけの勉強をやってきた自負はある。

もっと上のレベルが必要だとしても、また人生やり直して同じ期間でそこまで到達できた気はしない。

これで通用しなかったら、もう他にやりようは無い。


これが、私の歯科との区切りだ。

日本であれ海外であれ、もう歯科医院で仕事をするのはこれで終わりにしようと思っている。

私に歯科が向いていないのか。

そもそも向いている仕事なんて無いのか。

労働そのものに向いてない可能性もある。

でも、帰国したら新しい仕事に挑戦してみたいな~。

ワーホリでの目的が終了し、ついに先日帰国の航空券を予約した。

1年いれるビザで、4ヶ月で帰るのか~とも思ったけど、このまま何もする気になれない半年を送るのはしんどすぎる。

ゴールが決まれば、お金を使うことに関しても心労が減った。

最近は友達とだったり、1人でふらりと出かけてカフェや買い物を楽しんでいる。実際、仕事を始める前よりも気持ちは明るく、メルボルンもそう悪くないと思えるようになった。

気の持ちようって大切だな~。

「自分は海外に住みたいのか、旅行がしたいのか知りたい」

というのも、私のワーホリの目標だった。

どうやら、私は海外に住みたいというわけではなさそう。

ちなみに、海外旅行大好きという人たちに囲まれて話を聞いていると、自分は意外と海外旅行欲が強いというわけでもないことに気付く。

もちろん行ってみたい国はあるけど、年に何回も行くとかそういう気にはなれないかも知れないなあ。

それなら日本国内で行ってみたところもたくさんあるわけで・・・。

そういうところに気付けたのも、良かったことだなあと思う。


そんなわけで!

まさかの3日でお仕事終了しましたー!!笑

これから約1ヶ月、メルボルンを楽しんで帰ろうと思います。

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