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なぜ登山道整備の事業化を考えたのか【その4・登山道保全ワークショップの造成】

しばらく間が空いてしまいましたが、北杜山守隊で展開をしている「登山道保全ワークショップ」について書いていきたいと思います。


○自主事業の重要性

北杜山守隊では持続的な登山道の保全活動ができる仕組みを本気で構築しようとしています。
将来的な大きな構想としては国、地方自治体、民間による「協働管理体制」を担うことができる民間団体になることですが、短期的には「担い手不足」と「財源不足」の課題を解消して自立した民間団体となるため、補助金やボランティア活動に依存しない体制を構築することにコミットしています。

北杜山守隊が目指す収入構成

上の図は北杜山守隊が目指す収入構成です。
実際に2023年度は、このような構成にすることができました。
もちろん山岳環境を保全していくということは、公共的にも非常に重要であると思います。以前の投稿でも書いた通り、そもそも日本は諸外国と比べて、国立公園を維持管理していく予算も人も足りていません。公的な予算をもっと投じていく必要はあります。

諸外国に比べて圧倒的に少ない予算と人。その割に多い来訪者数。

しかし一方で、民間も財源確保の努力をしなけれななりません。
100%行政からの財源で活動をしようとすると、例えばトップの交代や社会情勢の変化で、予算の削減や廃止のリスクが常に付きまといます。

そこで基本的な考え方として、
・自主事業を行うことによって財源不足を補う
・人財不足の解消のため、自主事業で得た収益で人財育成を行う
ということにしっかりと取り組み、民間団体としての活動を持続可能なものにすることを目指しています。
そしてその自主事業の柱として展開している事業が「登山道保全ワークショップ」です。その他、会員制度(会費)、個人や企業からの寄付、物販、技術者派遣などがあります。

○登山道保全ワークショップとは

どうも「北杜山守隊は参加者からお金をもらって登山道整備をしている」と勘違いしている人がいらっしゃるようです。
確かに参加をするにあたってお金をいただいていることは間違いありません。「登山道整備をしてしっかり稼ぐ」という意気込みでやっています。
しかし「お金をもらって登山道整備ができる」と思って真似をしても、絶対にうまくいきませんし、そもそも捉え方を間違っています。

まずはワークショップはどんな内容で行っているか、隠す理由も何もないので次の資料をご覧ください。

1泊2日ワークショップ初日の構成
1泊2日ワークショップ2日目の構成

ワークショップは日帰りと1泊2日の2パターンを用意していて、大きな違いは取り組み時間の長さ、座学があるかないか、夕食を含めた交流の時間があるかないかです。

価格は日帰りが15,000円、1泊2日は宿泊食事込みで50,000となっています。
この価格感、高いと感じましたか?安いと感じましたか?
私はまだこの価格は「お試し価格」という認識です。
実際はもっと価値があるものだと思っています。登山でも登山ガイドによる講習会や山岳ガイドによる登頂ツアーなどがありますが、その価格感と比べても同等、または安いのではないでしょうか。

我々はこのワークショップを「体験講習プログラム」と位置付けています。つまり登山道保全に関する基礎的な知識を身につけていただくとともに、実際の作業を体験することで、登山道の修復作業にもリアルに貢献していただくというものです。ただ単に「参加者からお金をもらって登山道整備をしている」というものではない、ということに気付いていただけましたでしょうか。

○一年かけてコンテンツ造成

収益性のあるコンテンツとして成立させるため、2022年は一年かけてコンテンツ造成を行いました。その際には観光庁の補助金を活用させていただきました。補助金は地元DMO(一般社団法人八ヶ岳ツーリズムマネジメント)が主導する事業に乗る形でした。

補助金の申請にはたくさんの書類と向き合わなければなりませんが、八ヶ岳エリアではDMOが地域を取りまとめてくれているので、こちらとしては事業を作り込むことに専念することができました。いろいろと問題あると言われているDMOという仕組みではありますが、どう活かすかは事業者次第ではないでしょうか。

北杜市内におけるコンテンツ造成会議、先行事例である大雪山への視察、モニターツアーの実施などを経て作り込んでいきましたが、同時に次年度からの自走に向けてのPRにも積極的に取り組みました。

辛かったのは事業が始まる直前に左足首を骨折してしまったことでした(汗)
この年は長野県伊那市の馬の背ヒュッテの営業再開も重なっていたので、心身ともに余裕がありませんでした。馬の背ヒュッテからの下山中に、なんともないところで滑り、着地の衝撃で骨折。下記の「みんなで守る山の道」の映像には、ダブルストックで歩いているシーンが写っていますが、これがその理由です(笑)

PRにあたって主に力を入れたのが動画コンテンツでした。
自前のものだけでなく、有名YouTuberさん(かほさん)にお願いをしたり山岳専門誌の取材を入れ込んだりもしました。

このように一年かけて作り込んでいきましたが、最初から「こうしていきたい!」という具体的なプランはありませんでした。
一年前に自分が初めて体験して「おもしろい!」と思ったことを、どうやったらもっと面白く人に伝えることができるだろうか、という視点で考えていき、どんどん改善を重ねていきました。

○台湾千里歩道協会との出会い

しかしコンテンツ作りに終わりはありません。いまも都度アップデートされています。
年度が明けてから縁あって台湾にも赴き、そこで台湾で活躍する民間団体である「千里歩道協会」さんのワークショップに参加しました。
もともとこのワークショップはインバウンドの体験コンテンツにもなると考えていて、台湾の方に我々のワークショップを体験していただいたことをきっかけにつながりました。

台湾千里歩道協会は、台湾の自然美と文化遺産を保護することを目的とした非営利団体で、台湾各地のハイキングコースを繋げることを目的として2006年4月23日に発足しました。セミナーを開催して人々に働きかけ、利用を促すだけでなく、地域の環境問題に積極的に参加して自然を保護する活動を行っています。下記にその代表的なものを記します。

Eco-Craft Trail Campaign

"コンクリートを排除し、自然を保つ"。エコクラフトによるトレイル補修を続け、最も自然な形でトレイルを保護するキャンペーンを展開しています。

Trail Volunteer Working Holiday Training

ワーキング・ホリデー・ボランティア・プログラムを開催し、トレイルの補修やメンテナンスのボランティアを養成しています。エコクラフト・トレイルの実践は、ボランティアの協力なしには成功しなかったでしょう。

Community Empowerment with In-Depth Eco-Tourism

持続可能なコミュニティ参加システムを構築するため、地域コミュニティ、先住民グループ、関連機関と協力し、地元住民がガイドを務める詳細なエコツアーのフレームワークを構築しています。例えば、台湾の東海岸にある有名な阿蘭渓古跡ハイキングツアーは、現在地元のコミュニティによって運営されています。

高雄近郊で開催されたワークショップ
たくさんのボランティアさんによって運営されています。
この日はこの森の歴史を学ぶ一日でした。
「手作歩道」を作っている様子。紺色のウエアの方が指導者ですが、この中には一般参加者だけでなく、育成中の技術者(台湾では歩道師と呼んでいる)も含まれています。
締めくくりのアウトプット。全員が話をします。
このやり方は、北杜のワークショップでも採用させていただきました。

やはり自分の経験を超えるサービスは作れないものだと思います。
大雪山などの先進的な日本国内の事例を知り、学びに行くことは大切ですが、より広い視点で学びを深めていく必要がありますね。

今日はここまでとします。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!

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