“夢は叶う” … そして、“夢は続く”
色んなメディアで取り上げて頂いたように、2021年の12月初旬に、夢を追う学生たちの応援プロジェクトとしてMIRERO FESTIVAL(ミレロフェスティバル)を開催しました。
今回は、ミレロフェスティバルの概要と大会に込められた想いを皆さんにお届けできればと思います。
▲2021年12月3日
夕方、僕の母校である朝鮮大学校の一室に、全国の朝鮮高校から招集された21人の学生たちと今回のフェスティバルを素晴らしいものへと導いて下さった豪華スタッフ陣が一堂に会しました。
僕自身もその場に足を運びたかったのですが、翌日に明治安田生命J1リーグ2021シーズンの最終戦を控えていた為、ビデオメッセージを送りそれを見てもらうことにしました。
『君たちには全国朝鮮高校の選抜としてここに集まってもらった。つまり同年代の在日朝鮮人の代表だ。そのプライドを持って今回のフェスティバルに臨んで欲しい。限られた時間だし3日間という短い期間だが、この時間を無駄にすることなく自分の持っている力を100%発揮して、これからの自分の人生を生きていく上で何か良いきっかけになってくれれば嬉しい。』
学生たちにビデオメッセージを通じてこのように伝えました。
真剣な眼差しで動画を見る学生たち。
やってやるぞ!という気持ちが写真からも伝わってきますね。
どこかフワフワしていた雰囲気も一変して、一気に緊張が走ったそうです。
僕からのメッセージのあと、大学時代の恩師で今回のチーム総監督である金載東(キム・ジェドン)さんから挨拶があり、ミレロフェスティバルの日程確認やスタッフの紹介がありました。
テクニカルスタッフとして参画して頂いたのは、
・鄭容臺(チョン・ヨンデ)氏
・安英学(アン・ヨンハッ)氏
・李漢宰(リ・ハンジェ)氏
・金永基(キム・ヨンギ)氏
以上の4名になります。
プロの舞台で大活躍された、正に在日サッカー界のレジェンドたちです。
皆さん自分の仕事が忙しい中でも学生たちの為にとどうにか時間を調整して集まって下さいました。
そんな豪華スタッフ陣らと学生たちはグラウンドへ移動して、次の日の朝鮮大学校サッカー部との試合に向けてトレーニングを行いました。
このバチバチした感じがたまらないですね。
ボールさえあれば、どんな生い立ちであろうが、なに人であろうが、国籍がどこだろうが、すぐに仲間になれるのがサッカーの素晴らしいところです。
練習後には、ヨンハさんからも一言ありました。
僕はその場に居なかったので何を話されたかはわかりませんが、熱い言葉を学生たちにぶつけて下さったことでしょう。熱くなりすぎて一言では終わらなかったはずです。
トレーニング自体も生半可なものではなく白熱したものだったということは、隣にいらっしゃるジェドン監督の左脛にあるスライディングでできた傷を見ればすぐにわかります…
『遊びじゃないよ。』
ヨンハさんがよく口にする言葉です。
今にも聞こえてきそうです。
トレーニングの後、近くの焼肉屋で朝鮮大学校サッカー部OB会主催の食事会があり、学生たちはお互いの親睦をより深めました
1日目はこれにて終了。
▲2021年12月4日
早朝。
朝鮮大学校サッカー部との試合が行われました。
前日遅かったのもあってか眠たそうな顔でピッチに入ってくる学生たち。
それを見兼ねたハンジェさんが檄を飛ばします。
『君たちは修学旅行に来たのか?
そんな顔をしてピッチに立ってはいけないよ。
もっとギラギラした目で挑まなければいけない。』
数々の修羅場をくぐり抜け、どんな言い訳も通用しない厳しい世界の中で生き残っていくのにその一瞬の隙が命取りになることを誰よりも理解しているハンジェさん。
そして、ミレロフェスティバルの重要性や込められた想いを十二分に理解しているからこそ出た言葉でした。
この言葉が学生たちにどれぐらい響いたのかはわかりません。ただ、この経験が必ずこの先の人生に活かされると、後からこの話を聞いた時に僕は思いました。
結果は、0-4で朝鮮大の勝利でした。
今回選抜された選手のほとんどが高校3年生です。
春から同じ大学生になります。
この試合の結果とどう向き合うかで未来は変わると思います。
『相手は大学生だから…』
『急造チームだから…』
『昨日寝るのが遅かったから…』
『身体が重たかったから…』
言い訳なんて、しようと思えばいくらでもできます。
果たしてその先に成長はあるのでしょうか。
自分の何が足りなかったのか。
どこに課題があるのか。
それを克服するにはどうすればいいのか。
常に矢印を自分に向けて、この敗戦を次に繋げてくれることを願っています。
試合後に昼食を取り、朝高選抜チーム一同はマイクロバスに揺られて、ニッパツ三ツ沢球技場へとやってきました。
スタジアムへ向かう道中にも色んな困難が立ちはだかったそうですが、どうにか皆んなでそれを乗り越えて試合開始時間ギリギリに無事到着したそうです。
この話をするとヨンハさんとジェドンさんがバチバチに揉め出すので、割愛させて頂きます。笑
いつか機会がありましたら、番外編ということでお話ししますね。笑
話は戻り、なぜニッパツ三ツ沢球技場に移動したのかと言うと、僕が所属する横浜FCの2021シーズン最終戦 vs北海道コンサドーレ札幌との試合観戦に今回集まってもらった学生たちを招待していたからです。
僕はこの試合でスタメンフル出場を果たしました。
学生たちに何か1つでも学んで帰ってもらいたい。
そう思いながら、チームの為に必死に戦いました。
のどが潰れるぐらい声を張り上げ、チームを鼓舞し、相手のストライカーに仕事をさせないように自分の役割に全力で集中し、ゴール前では身体を投げ出して、最後まで諦めることなく勝利を目指しました。
しかし、結果は0-1の敗戦でした。
プロの試合観戦という非日常の体験を通じて、学生たちは何を思い何を感じたのでしょう。
同じルーツを持つ選手がその舞台に立っていることに何を思ったのでしょう。
僕のプレーは彼らに夢を与えることができたのだろうか。
誰かにとっては刺激を、誰かにとっては感動を、誰かにとっては夢を、この日の僕のプレーで与えることができたのならとても嬉しく思います。
試合後、上大岡の焼肉屋で学生たちが食事をしているということだったので、そこに向かいました。
ここで初めて学生たちと直接顔を合わせました。
みんなの目はキラキラしていて、まるで僕が学生の頃ヨンハさんを見る時のようでした。
『今回スタジアムに足を運んで応援してくれてありがとう。今日の試合で各々が感じたことがあるはずだ。それを明日の試合にぶつけて欲しい。この時間は2度と戻ってこないから、もっとこうしておけばよかったという後悔がないように残りの時間に全力を注いで欲しい。君たちの存在は自分にとってもモチベーションになる。心から応援しているし、明日の試合を楽しみにしているよ。』
そう学生たちに伝えて、会場を後にしました。
▲2021年12月5日
快晴。
この日がミレロフェスティバルの最終日であり、メインイベントである関東第一高校との試合が開催されました。
会場は日産スタジアムの隣にある日産フィールド小机。
横浜・F・マリノスが練習場として使うピッチということもあり、綺麗な天然芝が一面に広がっていました。
ロッカールームでは、ジェドン監督による魂のミーティングが行われました。
選手たちをモチベートするのと同時に、戦術も落とし込んでいきます。
大学時代の監督でありそのご指導を直接受けた僕の経験から言えることは、ジェドン監督のこのミーティングで学生たちのアドレナリンは一気に最高潮へと達したはずです。
青空のもと記念撮影を行い、いざキックオフ。
チームの解散式があった関係でキックオフには間に合いませんでしたが、前半10分過ぎには僕も会場に到着してベンチから戦況を見守ることができました。
両者一歩も譲らない、白熱した闘いが繰り広げられました。
結果は1-2で、関東第一高校の勝利でした。
試合に勝てた喜び。
反対に、試合に勝てなかった悔しさ。
結果を出せた満足感。
自分の実力を発揮できなかったモヤモヤ。
持っている力を全て出し切った清々しさ。
もっとプレー時間が欲しかったという不満。
試合に出られなかった悔しさ。
…
そこには、たくさんの感情が入り混じっていました。
試合後、ミレロフェスティバルの閉会式を行いました。
勝利した関東第一高校のキャプテン、池田選手には副賞としてSEGMENT株式会社様より提供して頂いたEMSスーツをプレゼントしました。
負けはしましたが、素晴らしいプレーで全国朝高選抜チームを牽引し、『魂』を全面に押し出して最後まで熱く戦った鄭翔英(チョン・サンヨン)には、MIP賞として僕のサイン入りユニフォームをプレゼントしました。
サンヨンは同じ京都出身で、僕と同じように京都の朝鮮学校に通っています。
実家同士も近く、サンヨンが幼稚園児の頃から可愛がっていて、よく一緒にサッカーをして遊んだ仲です。
ポジションも、僕と同じセンターバック。
上手さと力強さを兼ね備えた左利きの大型センターバックで、忖度や贔屓目無しに、この試合で一番目立っていました。
今回参画して頂いていたテクニカルスタッフの皆さんや関東第一高校の監督さんまでもが、『あのセンターバックは頭ひとつ抜けているね。』と口を揃えて評価していました。
第1回ミレロフェスティバルで朝高選抜チームの一員としてサンヨンがプレーしてくれただけでも嬉しかったのですが、そこで自分の実力をしっかりと発揮しMIP賞を受賞する活躍を見せてくれたことにとても胸が熱くなりました。
サンヨンは春から僕の母校である朝鮮大学校に進学し、プロサッカー選手を目指すそうです。
今後のサンヨンの活躍に目が離せませんね。
これをお読みになっている皆さんも是非サンヨンに注目してみて下さい。
『まずはこのミレロフェスティバルを開催するにあたってたくさんの方々に協力して頂きました。支えてくださった全ての方々にこの場をお借りして感謝申し上げます。
そして関東第一高校の皆さん。
全国高校サッカー選手権大会に東京B代表として出場されることを祝福すると同時に、大会でのご健闘を心から願っています。
今日の試合を見ていても、個人のクオリティの高さやグループでのコンビネーションによる突破や整理された守備戦術など、とてもハイレベルで朝高選抜チームにとってとても貴重な経験になりました。
ここで繋がった絆を大切にしてお互いが切磋琢磨し、もっともっと上の舞台で活躍できるように頑張って欲しいと思います。
今日プレーした選手の中から1人でも多くの選手がプロの舞台で活躍することを願っています。
また今日の経験を通じてこの先の皆さんの人生が豊かなものになってくれればとても嬉しく思います。
この先もミレロフェスティバルは続きます。
記念すべき第1回大会の一員として携わって頂いたことに心から感謝し、以上私からの挨拶とさせて頂きます。
本日はどうもありがとうございました。』
僕の締めの挨拶で、第1回ミレロフェスティバルは幕を閉じました。
▲大会を終えて…
試合後、日産フィールド小机の外で円陣を組み、今回参加した学生たちに向けてメッセージを送りました。
『今日の試合を見ながら、正直心が踊った。
まだまだ荒削りだけど、間違いなくそれぞれ皆んな良いものを持っている。向上心を持ち続けて常にチャレンジし続けて欲しい。
試合に出られなくて悔しい思いをした選手がこの中にいる。キツいこと言うかもしれないけど、これがサッカーの世界だよ。そんなに甘いものじゃない。
試合に出たいなら自分の実力で勝ち取っていくしかない。
ピッチに持っていけるものは何がある?
お金?武器?
相手がでかいからってハシゴでも買って持ち込むか?
そんなことはできなくて、
ピッチに持っていけるものは、自分が磨き上げたスキルと今までやってきた努力とか積み上げた自信なんだ。
だから、1日1日を大切にして欲しい。
1回の練習に全力で打ち込んで欲しい。
今日の試合にはJリーグチームのスカウトの方も見に来ていたよ。この1試合で人生が変わるかもしれない。
急造チームだから。
最近あんまり練習してなかったから。
相手が強かったから。
あの選手がパス出してくれなかったから。
監督が使ってくれなかったから。
うまくいかなかった言い訳ならいくらでもできるよ。
でもその先に成長なんてものはない。
常に矢印は自分に向けて欲しい。
今日の試合だけを頑張ろうと思っている選手には中々チャンスは巡ってこない。
今日のような試合で実力を発揮できる選手というのは、常日頃からサッカーと真摯に向き合って100%の準備をしている選手なんだ。
僕自身も、試合に出れずに悔しい思いを何回も経験した。試合に負けて何度も落ち込んだし、たくさん挫折も経験した。高校の時は全国大会にも出られなかったし、大学の時は3年生まで補欠だった。
でも、一度も諦めなかった。
上手くなるにはどうしたら良いのか。
速く動くにはどうしたら良いのか。
強くなるにはどうしたら良いのか。
高く跳ぶにはどうしたら良いのか。
勝つにはどうしたらいいのか。
常に考え続けて、1日を全力で生きた結果が今にある。まだ夢を追う途中だし何も成し得ていないけど、一度でも諦めてしまっていたら今の自分はいない。
この先何があっても周りに原因を探すのじゃなくて、常に矢印を自分に向けて成長を止めないで欲しい。
僕にはこの環境を君たちに用意することしかできない。
このチャンスを掴めるかどうかは君たち次第だ。
誰よりも君たちのことを応援しているし、この中の誰かとプロの舞台で一緒にプレーできる日を楽しみにしているよ。
僕も自分の夢を叶えるためにまだまだ頑張ります。
お互い頑張りましょう。
ありがとうございました。』
溢れ出る想いを抑えることはできませんでした。
この先の人生、辛いことや苦しいことが沢山訪れると思います。
その困難を乗り越えるのに、今回のミレロフェスティバルでの経験が少しでも活かされることを心から願っています。
そして何よりも、夢がいっぱい詰まったこのようなプロジェクトを開催できたのは、沢山の方々のご尽力があってこそでした。
僕がこのようなプロジェクトをしたいと夏に相談に伺った時、即答で是非実現させようと背中を押して下さった恩師のジェドン監督。
テクニカルスタッフとしてチームを支えて下さったヨンデさん、ヨンハさん、ハンジェさん、ヨンギさん。
主催して下さった在日本朝鮮人蹴球協会の関係者の方々。
全国朝高選抜として集まってくれた学生たち。
学生たちを送って下さった各学校の先生や保護者の方々。
母校である朝鮮大学校の関係者の方々。
協力して下さったサッカー部OB会の方々。
対戦して下さった関東第一高校の方々。
3日間密着取材をして下さった各メディア関係者の方々。
特別スポンサーとして協賛して頂いたミレロ会アジョシ達。
誰一人として欠けては、成立しない大会でした。
本当に心から感謝しています。
ありがとうございました。
▲“夢は叶う”…そして、“夢は続く”
꿈은 이루어진다 (クムン イルオジンダ)
“夢は叶う”
ヨンハさんの言葉です。
2010年南アフリカワールドカップに朝鮮民主主義人民共和国の代表として出場され、グループリーグの全試合にも出場されました。
そのアジア予選中に代表のチームメイト達とこの言葉を常に言い合っていたと聞いたことがあります。
ヨンハさんが言うに、この“夢は叶う"という言葉の真理は、夢が叶うかどうかはわからないし叶う時もあれば叶わない時もあるかもしれない、でも夢は叶うんだと信じて夢を叶えるんだと強く願いながら努力し続けるその姿勢がとても大事なのだそうです。
僕はこの言葉に何度も勇気をもらい、今も自分の夢を追っています。
同じルーツを持つヨンハさんの活躍する姿に沢山の夢と希望を頂きました。
『次はホガンの番だよ。』
ヨンハさんからの想いをしっかり受け継いでいきます。
次は僕が、夢を追う姿や大舞台で活躍する姿を通じて、次世代に夢や希望を与えていきたいと思います。
そしてこのヨンハさんが灯した『魂』を次へと継承していくことが僕の使命だと思います。
そういう意味を込めて、この言葉で締めくくります。
꿈은 이어진다 (クムン イオジンダ)
“夢は続く”