銀一郎さんの言葉
「河村くん、円満な退社と離婚はないんだよ」
銀一郎さんとのサシ飲みで微笑みながら言った。
ちょっと前に、職場を退職した人が「円満退社だ。なんの問題もない」と豪語していたからだので、そのことを言っているのだなと思った。
この仕事に就く前に正社員もやったこともあるが、退職に良い思い出はない。
離婚経験はないが、彼女と別れて円満だったこともない。
なにかしら禍根を残すものなのだ。
豪語していた人は相当鈍いか後ろめたかったからかのかなと思った。
その人は結局新しい職場で何かやらかして退職した。古巣にも戻れず、その後は知らない。
一緒に仕事をしたことはなかったし深い付き合いもなかったからだ。
20代の頃にやっていたPCサポートの仕事を辞める時は心が痛かった。
俺のことを高く評価してくれたし、待遇も良くしてくれたからだ。
その時は夢を追って、業界に飛び込むことを優先した。
5年くらいした時に深夜に職場の同僚から「河村さん、元気にしている?」と電話がかかった時は嬉しかった。
その人はHさんという人で年下だったが俺の上司で様々な苦難を共にした戦友だった。
「今、こんなことやっているよ」
と答えると喜んでくれたのを覚えている。
あれから10年以上経ってしまったが、Hさん元気にしているかな。
何処かで、これを見たら連絡頂戴ね。
携帯を変えた時に連絡先が消えちゃったんだよ。
SNSも今ほどない時代だったからね。
連絡なくても元気にやっていてくれたら、それでいい。