これからの男、杉浦

「投手の分業化が進み、最近の先発投手は何かあるとすぐ交代したがる。体力がないのもあるし、疲れたら交代したいオーラをベンチで出している。」

いつ誰の言葉だったかは覚えていないし細部は違うと思うのだけれど、なぜだかずっと頭に残っている言葉である。ファイターズでは長いイニングを投げられる投手が減ってきていたので、今の投手はそういうものなのかなと思った覚えがあるし、全員ではないけれど先発投手たちを見る目もなんとなくそれまでとは違ってしまっていた。

「 (続投に)行かせてもらえる。行かせてもいいと思われるようになったのが僕としては嬉しい。」

プロ入りから初めて先発として8回のマウンドに立った日、杉浦が発した言葉である。杉浦も決してイニングが食えるピッチャーではないが、それは誰にどう見えていたとしても早く代わりたくて投げないのではない。本人は投げたくてたまらなかったのだな、と改めてグッときた。度重なる怪我とリハビリ、制限のかかった投球。ここに至るまで長く我慢してきたのだ。


ヤクルトとの交換トレードで杉浦がファイターズにやってきた2017年。奥さんが「地元の北海道でよかったね」と喜んでくれたという話を聞き、チョロいファンである自分は(スペ体質?怪我のリハビリ中だから即戦力にならない?そんなの関係ないねファイターズへの移籍を喜んでくれるなら大歓迎!応援するぞ!)と思った覚えがある。結局その年は登板はなく、彼がどんな選手かは分からなかった。

2018年7月21日。衝撃のデビューだった。ソフトバンク相手に5回を投げてノーヒットノーラン。素晴らしい投球で移籍後初勝利を手にした。その日は現地で、杉浦から目が離せなくてトイレにも立てない、なんて言っていたような気がする。一目惚れと言っていい。特に魅せられたのは体幹の良さで、ダイナミックに投げるのに軸足にしっかり体重を乗せてブレない。帯広はスケートが盛んなのでそれでかな、と思ったものだが、子供の頃は野球の他にアイスホッケーもやっていたらしい。とにかくそうやって全身の力を載せたストレートは見ていて気持ちが良くて、まんまと心を掴まれてしまった。結局この年一軍での登板は3度だけだったが、ファンに「杉浦稔大」の存在を大きく印象づけたシーズンになった。

2019年。この年ファイターズは先発投手が少なく、ショートスターターやオープナーという新戦術を織り交ぜて戦っていた。杉浦はというと一軍帯同しながら投げ抹消の中10日70球制限での登板という、これまた新しい形での起用がメイン。怪我明けの肩の負担を考慮した形ではあったが、「中10日もあけているんだからもっと長く投げろ、それができないなら二軍でいい」などという声も少なからず上がっていた。そんな中杉浦は身体の様子を見ながら登板間隔を狭めたりひと試合で投げられる球数を増やすなど、調整を進めながら一歩一歩進んできた。

そして今年、2020年。開幕ローテーションの中に杉浦の名前があった。ここまで3勝、まだ完全に先発の柱として中6日でまわることは出来ていない。それでも「行けるところまで」と毎登板100球前後を投げ、ファンを魅了する投球を続けている。マウンドで投げる姿は最初の年に心奪われたような芸術的な美しさではない。だがより長く、より粘り強く投げられるように変わった姿が見て取れてその変化、成長が愛おしい。

杉浦が貪欲な選手だということが本人の言葉でわかって良かった。とても応援しがいがあるじゃないか。今までも本当は投げたかったけれど無理して身体を壊したら元の木阿弥と、貪欲だからこそこの先もっともっと投げるために我慢して我慢して我慢したから今があるし、未来がある。将来的にはファイターズの柱として、末永く思う存分投げてくれる。

冒頭の発言をした日、8回のマウンドに上がったものの結局イニング途中で降板したことに悔しさが滲むコメントを残しているのもまたいい。その悔しさはまた次の成長の糧になる。怪我がちで年齢の割に経験が少ない杉浦は、これからいろいろなことを経験してもっともっと伸びる。「行けるところまで」行った結果9回のマウンドまで行き着く。それは明日かもしれないし、来週かもしれないし、もしかしたら来シーズン以降かもしれないけれど、怪我さえしないように投球を続けていけば、そんな日が来ることを信じている。

ファイターズの未来を支える投手杉浦稔大は、これから花開く。


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