在宅鍼灸師という仕事〜1年目の葛藤〜(前編)
こんにちは。HAMTライブラリ編集部です。
今回はHAMTライブラリ特別編!
在宅分野で働く新人鍼灸師さんのリアルを記事でお届けします。在宅分野は学生さんや訪問現場が未経験の方にとっては”未知の領域”と感じることも多く不安に感じる人も多いのではないでしょうか?
そこで現在鍼灸師2年目となったヒロさんに1年間在宅現場で実際に働いて感じた想いを、前編・後編と2回に渡り書き綴って頂くことになりました。
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鍼灸師・鍼灸学生さんはチェックしておきましょう!
それではどうぞご覧ください!
自己紹介
はじめまして。R4年に専門学校を卒業し、今年で在宅鍼灸師2年目となる、小幡宏美、こと、ヒロ と申します。北海道の高校卒業後、生物学を学ぶため渡米するも、紆余曲折あり最終的にはComputer Scienceを修学し、帰国。その後20年近くIT企業でシステムエンジニアとして働いておりました。出産と育児と仕事の両立は想像以上に厳しく、最終的にはうつ病となり休職。「子供にイキイキと働く姿を見せたい」と思った私は、本当にやりたかった仕事をやろうと決意。生命の妙を学びたいと生物学を目指していた過去を思い出し、人の健康に携わる医療関係への転職活動を開始。そうして試行錯誤するなか様々な偶然が重なり、鍼灸師という「これは天職だ!」と思える仕事に巡り合いました。
今回の記事では、学校では知り得なかった在宅鍼灸の現状、葛藤、そして、それらを経験し導き出した私なりの未来像について書きました。前編は主に経験談を、後編では鍼灸師だからこそできること、在りたい姿についてまとめています。
これから在宅鍼灸を目指す方、または、私と同じように悩み葛藤されている方にとって、少しでも心残るものになれば幸いです。
自分の仕事は何なのか
「自分の仕事は何なのか。誰のためなのか」
在宅鍼灸に携った1年間。深く悩み、もがき苦しみ、問い続けました。
いわゆる老人ホームに初めて足を踏み入れた日を、今もはっきり覚えています。
脳血管障害から重度の認知症を患い、意思疎通もできず痙縮が進みカチコチになっている方。認知症状のため1日中歩き回り、ベッドに寝かせることも困難な方。ベッドにぽつんと座り、うつろな目で一点をみつめる小さな背中。
約20年間IT企業で働き、同僚は皆20代〜40代。実家からも遠く高齢の方と触れ合う機会はほぼ皆無であった自分には、あまりに衝撃的な光景でした。
経験も自信もなく、かける言葉すら見つからない。
それでも、鍼をすると脈が変わる。それは意思疎通できない患者さんとの唯一の交点でした。
急に認知症が改善するわけでもなく、痙縮した筋肉が解けるわけではない。それでも、わからないながらに試行錯誤し、脈の変化を追い求めました。やがて、ほんの少し脈の変化に気づくようになりました。「今日は穏やかな顔だね」「あれ?なんか疲れてる?」そんな言葉が出るようになりました。 今思えば恥ずかしい。なにやらわかった気になっていたのです。
とある患者さんの話です。ある日、脈がいつもと違う。いつもより弱く正気を感じない。話しかけても応答はなく口をポカンと開け、顔は土色。その日の夜、他界されました。「死脈」に初めて触れたのはこのときです。その患者さんは気難しく、施設の方をしばしば困らせていました。私に対してはそういった態度を見せることはなかったのですが、施術が終わる頃になるといつも「足をさすってくれ」というのです。きっと寂しかったのだと思います。他愛のない話しか交わしていませんが、私が部屋を去るのを少しでも延そうとしていたのでしょう。
この患者さんに、私は何ができていたのでしょうか。
もっと足をさすってあげればよかった。時間ギリギリまでお話してあげればよかった。鍼で脈の変化がでたところで、一体なんだというのでしょうか。私は一体なにをしていたのでしょう。脈を追い求めすぎるあまり、患者さん自身をみていなかった。脈診は大切な情報であるという考えは変わりません。しかし、もっと「全体」を診なければいけない。今も心の傷として残るこの出来事は、大きな学びとなりました。
在宅鍼灸では患者さんはほとんど高齢者です。ほとんどが完治を見込めない慢性疾患。「治癒」が目的ではないのに治療している。この矛盾に悩み続けました。
悩みながらも臨床は続きます。
やがて、「小幡先生がきてくれるとホッとする」「先生が来るのを楽しみにしている」そういうお言葉をいただけるようになりました。治療経験も浅く技術も知識も未熟な私ですが、自分が居ることで、患者さんたちの表情が緩む。目に光が宿る。声に力がこもる。患者さんたちが、私の仕事は、できる貢献がなにかを教えてくれました。
「今より悪くしない」は不十分
高齢患者の慢性期における治療シーンでは「今より悪くしない」が目下の目標に挙げられます。ですが、在宅の現場に身を置いていると、それでは不十分だと感じることが多くありました。身体的不調に関して言えば「今より悪くしない」を目標とすることは妥当でしょう。しかし、鍼灸師の仕事を身体的苦痛の緩和に限ってしまうのは、あまりにももったいないと思うのです。
患者さんには老老介護状態である方が少なからずいらっしゃいます。子供がいても遠方であったり多忙であったりと頼ることができず、ケアマネージャーさんや在宅介護サービスを利用されていても、自分や伴侶の体の不調について気軽に相談する相手がいない。
担当した患者のご夫婦の話です。病院に行った際に「いろはす」のペットボトルの水を買って、それが大変美味しく夫が気に入った。だけど近くのドラッグストアでは取り扱いがなく、次の通院は数カ月先。夫はその水しか飲みたくないというので困っている、と。奥様も健康に不安を抱えた状態で脳梗塞後遺症で体の不自由な旦那さんの介護をされています。携帯操作がわからないため私達が当たり前のように使うネット通販が使えず、歩いてたった10分先のコンビニにさえも夫を一人にして行けない。
在宅の現場では、こういった体の不調以外のお悩みを聞くことは少なくありません。
鍼灸師の強み
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