断片:花びら供養
1980年代の末、小学校の学区が6つくらいの少し大きな港町。まだ小学校に行き始めたくらいの頃。町内会の盆踊りがあった。スマートボールやパチンコ、わたあめ、お面の出店くらいしかない小さな盆踊り。弟と一緒に覚えたての盆踊りを踊ったりしていた。踊りの最後で飴がもらえるのを楽しみに踊っていた。
隣の町内に発達遅滞で、大きな声を出してしまう中学生くらいの男の子がいた。田舎では誰もがあまりかかわらろうとしない。彼の父母が一緒に連れてきた。当時は何もわからずその男の子に話しかけたりしながら一緒に踊った。大きな声で叫んだりするので「どうしたの?」などと話しかけたが返事をしてくれないので何度も話しかけたのを憶えている。結局周りの大人たちが、みんな楽しんでるのだから帰ってくれということを言って、その子の父が手を引き母が頭を下げながら帰っていった。その男の子の母親は当時まだ子供の私に「遊んでくれてありがとう」と頭を下げてくれた。その男の子はその後お祭りなどで見ることはなかった。
『苦海浄土』
「きよ子は手も足もよじれてきて 手足が縄のようによじれて わが身を縛っておりました 私がちょっと留守をしとりましたら 縁側に転げ出て 縁から落ちて、地面に這うとりましたですよ たまがって駆け寄りましたら かなわん指で 桜の花びらば拾おうとしよりましたです 曲った指で地面ににじりつけて 肘から血ぃ出して」
あれから30年以上経つがこの時期になると思い出される。誰もが発達遅滞や先天性疾患を選んで生まれてくるわけではないし、選んで生むわけでもない。親も子もそうなのだ。花びらを求めてはいけない事があるのだろうか。