第10回 商標が登録されるためには
すでにお伝えしたとおり、LDHはガールズグループ「MOONCHILD」の商標登録出願をしており、2023年6月26日現在、特許庁において審査中になっています。この経緯については第5回、第8回、第9回をお読みください。
今回は商標が登録される要件などについて、説明したいと思います。
商標が登録される要件
商標を登録することができる要件、登録できない要件は、商標法3条及び4条に列挙されています。
例えば、他人の氏名、名称、著名な芸名、ペンネームなどを含む商標は登録できません(4条1項8号)。この規定はその他人の人格的利益を守るためとされています。「他人」は個人だけでなく、法人や団体なども含まれます。
また、人々の間でよく知られている未登録の商標と同じ、または類似する商標を、同じ、または類似する商品、役務について使用する場合も登録できません(4条1項10号)
さらに、世間の人々がその商標を見たときに、誰の商品、サービスであるかを区別することができない商標も登録できません(3条1項6号)。
ほかには、商品の品質または役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標も登録できません(4条1項16号)。
以上、識別できない商標や混同させる商標は登録できない、という趣旨の条文をいくつか挙げてみました。
これらの商標法の条文に照らして考えると、今回のLDHによる「MOONCHILD」の商標登録には大いに疑問があります。MOON CHILDという名称はバンドやネオソウルバンドの「他人の名称」(4条1項8号)ですし、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」(4条1項10号)のではないですかね。
ところが、2023年1月に特許庁がLDH側に出した「拒絶理由通知書」にはバンドや海外のネオソウルバンドが関わる拒絶理由はまったく言及されておらず、一顧だにされていません(第9回)。もちろん、審査官が全員、音楽に詳しかったり、未登録商標を幅広く知っていたりするわけではないと思います。しかし、今回の審査に当たり、類似する未登録の有名な商標がないかどうかは、インターネット検索をすればすぐに判明したのではないでしょうか。そう考えると現在の特許庁の審査の質についても、少々疑念を抱かざるを得ません。
誰でもできる!特許庁への「情報の提供」は密告制度!
ところで、商標法は、「情報の提供」という制度を設けています(商標法施行規則19条)。
この制度は、「出願された商標が登録の要件を満たしていないよ!」という情報(刊行物等提出書)を特許庁に提供できる制度です。
そりゃあ、自分の名前が他人の登録商標になってしまいそう!ということになれば、大きな不利益が生じる可能性がありますので、利害関係のある人が情報を提供できるような制度を用意すべきであるのは当然のことです。
しかし、この制度は利害関係者だけでなく、「誰でも」情報提供できると定められています。しかも匿名での提供も許されており、いわば特許庁への「密告制度」といえます。これは審査官が個別に行うことができる調査と収集できる情報には限界がありますから、審査の質の向上のため、広く世間から情報を募ろうという趣旨だと思います。それによって、健全な取引社会をつくっていこうという目的があるのですね。
本件については、私もこの「刊行物等提出書」を特許庁に提出しましたし、私の他にも何人かが「刊行物等提出書」を提出している事実を確認済みです。
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